「どんぐり」とは?

“どんぐり”って、植物のどの部分にあたるもの? 種子? いえいえ、どんぐりはいわゆる果実にあたる部分のことで、正確には「(けん)()」と呼ばれる部分のこと。秋の味覚としてよく知られているクリもどんぐりの一種、といえばわかりやすいかもしれない。一般的には食用としてオススメできるどんぐりは多くはないが、リスやクマの大好物といえばうなずく人も多いだろう。

植物学的には、ブナ科(とくにコナラ属)植物の果実(堅果)の総称。大きさや形状には樹種によってそれぞれ微妙な違いや特徴があるが、基本的には先端が尖った細長い「堅果」を「(かく)()」(「斗」は、ひしゃく状の器という意味)と呼ばれるお椀状の殻が覆っている。

一般的にどんぐりの種類を見分けることはとても難しい。どんぐり自体から樹種を判別するよりも、木自体、さらには葉っぱを見て判断するほうがわかりやすい。素人目で判別できるのは「属」の違い。植物学的にどんぐりを分類すると、ブナ科「ブナ属」「クリ属」「コナラ属(コナラ亜属・アカガシ亜属)」「シイノキ属」「マテバシイ属」となる。樹種を判別するのはとてもハードルが高いが、「属」を見分けることは比較的わかりやすいだろう(以下の表組内特徴参照)。また、「ブナ属」「クリ属」「コナラ亜属(ウバメガシを除く)」は落葉広葉樹で、「アカガシ亜属」「シイノキ属」「マテバシイ属」と「コナラ亜属」のウバメガシは常緑広葉樹。こんなところもどんぐりの樹種を見分けるヒントとなる。

どんぐりの種類は、日本固有種で22種(交雑種や変種、亜種などを含めるとさらにある)。分布域は北海道から沖縄まで、樹種によっては広範囲にまたがっている。こんなどんぐり、知っているようで知らないことがたくさあるのではないだろうか。以下の表とイラストのどんぐりと葉っぱを参考にして、ぜひ身近なフィールドにどんぐりを探しに行ってみよう。これまでとは違ったどんぐりの世界が見えてくるはず!

①堅果
堅く乾燥した果実、またはその皮のこと。基本的には楕円状に丸みを帯びた形状だが、樹種により大きさや色味が微妙に異なる。クヌギやオキナワウロジロガシのように球形に近いものや、クリのように三角錐的に丸みを帯びているものもある。個体によって異なる場合も多い。花が咲き、その年にどんぐりが成る「1年成」と、翌年に成る「2年成」がある
②殻斗
どんぐりのお椀のような形の殻の部分のこと。「ぼうし」や「はかま」などと俗的には呼ばれている。ウロコ状や横島模様、さらにはイソギンチャク(トゲ)のような形状のものなど、樹種によりそれぞれの特徴を持つ

ニッポン全国に
自生する
「どんぐり」22種

日本固有22種、
「どんぐり」と
「葉」の特徴


ブナ【橅/ブナ科ブナ属/落葉広葉樹/
分布:北海道~九州】

どんぐり:1年成。三角錐形状の堅果を、イソギンチャク状の殻斗が全体的に覆っている。落下すると殻斗が4つに分裂し、中に堅果が2つ。堅果には油脂が多く含まれており、冬眠前の動物の格好の食料となる。

葉:黄色く紅葉(黄葉)し、落葉する。外側はなめらかな線の波のような形が連続しており、側脈が7~11対前後ある。裏側は薄い緑色。


イヌブナ【犬椈/ブナ科ブナ属/落葉広葉樹/
分布:本州~九州】

どんぐり:1年成。ブナ同様、堅果は三角錐形状だが、大きさはブナの3分の2ほどで、ソバの実に似ている。殻斗は短く、鱗片状。ブナと形がとても似ているが、殻斗から細長い柄が出ているので判別は容易。

葉:ブナ同様、外側は滑らかな波のような線が連続しているが、イヌブナは裏側の葉脈に白い毛が生えており、さらに側脈も9~14対と多いので、判別はしやすい。


クリ【栗/ブナ科クリ属/落葉広葉樹/
分布:北海道~九州】

どんぐり:1年成。イソギンチャク状の鋭いトゲを持つ殻斗は、鱗片が発達したもの。小粒で甘く生で食せる「ヤマグリ」や「シバグリ」と俗に呼ばれているものが本来の野生種で、販売されているものは改良された園芸種。

葉:薄くて長楕円形をした葉の外側には鋸歯があり、その先端にトゲがある。秋になると黄色く紅葉(黄葉)し、落葉する。


コナラ【小楢/ブナ科コナラ属/落葉広葉樹/
分布:北海道~九州】

どんぐり:1年成。一般的に堅果は細長い楕円形をしており、いわゆるどんぐりの代名詞的存在。ただし、大きさは個体によってさまざまなので、判別・同定は難しい。鱗片状の短い殻斗が堅果を覆っており、ここが特徴。

葉:外側全体的に鋸歯があり、長い葉柄があるのが特徴。裏側はやや薄いは白っぽい緑色。黄色や褐色、または真っ赤に紅葉して落葉する。

ミズナラ【水楢/ブナ科コナラ属/落葉広葉樹/
分布:北海道~九州】

どんぐり:1年成。堅果は非常に濃い茶褐色で、どんぐりのなかでは大き目。一般的には本州で最も大きなどんぐりで、鱗片状の殻斗を有する。どんぐりのなかでも、いち早く根を出す種としてもよく知られている。

葉:外側が全体的にウネウネとしており、裏側は薄い緑色。コナラとの見分け方は葉柄。ミズナラには葉柄がほとんどない。


アベマキ【棈/ブナ科コナラ属/落葉広葉樹/
分布:本州~九州】

どんぐり:2年成。堅果は非常に濃い茶褐色で、どんぐりのなかでは大き目。一般的には本州で最も大きなどんぐりで、鱗片状の殻斗を有する。どんぐりのなかでも、いち早く根を出す種としてもよく知られている。

葉:ギザギザとしたトゲが葉の外側に並ぶ。クヌギに似ているが、アベマキの葉の裏側には星状毛が密集しており、かつ白っぽい薄緑色。


クヌギ【櫟/ブナ科コナラ属/落葉広葉樹/
分布:本州~沖縄】

どんぐり:2年成。まん丸でダルマさんのような大きな殻斗と、堅果はウネウネとしたイソギンチャク状(鱗片が発達したもの)が最大の特徴。だが、アベマキもほとんど同様な形状なので、判別が難しい。

葉:鋸歯状の細長い葉の外側には白いトゲが並んでいる。クリとよく似ているが、クリのトゲは緑色なので見わけられる。


カシワ【柏/ブナ科コナラ属/落葉広葉樹/
分布:北海道~九州】

どんぐり:1年成。クヌギやアベマキ同様、イソギンチャク状の殻斗を有すが、カシワのトゲは紙のように薄いうえ、とても柔らかいのが最大の特徴。堅果の頭部分がとんがっているのも判別する際のポイントになる。

葉:ウネウネと波のような形状をした葉の外側が特徴。裏側は薄い緑色。落葉するが、次の新芽が出るまではほぼ落ちない。


ナラガシワ【楢柏/ブナ科コナラ属/落葉広葉樹/
分布:本州~九州】

どんぐり:1年成。鱗片状の底の浅い殻斗を持ち、堅果は大きな太鼓のような形をしている。堅果のてっぺんの部分が白い毛で覆われているので、判別しやすい。葉での判別が難しいので、どんぐりで判別したほうがわかりやすい。

葉:外側はウネウネとした波のような形で、裏側は薄くて白っぽい緑色。カシワと似ているが、ナラガシワは鋸歯の先端がカシワよりも鋭い


ウバメカシ【姥目樫/ブナ科コナラ属/常緑広葉樹/
分布:神奈川県以西~沖縄】

どんぐり:2年成。浅くて小さな鱗片状の殻斗を持ち、すぐに脱げ落ちてしまうのが特徴。堅果はへその部分が非常に小さく、これも殻斗が脱げ落ちやすい要因となっている。堅果の先端部分の周囲には白い毛が生えている。

葉:ブナ科のなかで最も小さい葉を有し、外側に小さなギザギザがあり、裏側に反り返っている。葉は堅く、乾燥に強い。


アカガシ【赤樫/ブナ科コナラ属/常緑樹/
分布:本州~九州】

どんぐり:2年成。殻斗には輪層状(横島)の模様があり、ビロード状の毛で覆われている。形状は細長いものもあれば、丸みを帯びたものもあり、かつシラカシやツクバネガシとよく似ているので見わけにくい。葉に特徴があるので、葉で判別する。

葉:葉の軸の部分である葉脈がとても長く、裏側にはっきりと見えるのが最大の特徴。外側にギザギザがなく、なめらかなカーブを描く。


ツクバネガシ【衝羽根樫/ブナ科コナラ属/常緑樹/
分布:本州~九州】

どんぐり:2年成。アカガシ同様、輪層状(横島)の模様が殻斗にあり、ビロード状に毛が覆う。アカガシととても良く似ているが、最大の違いは縦の縞模様が堅果にあること。これが判別の最大の目印。また、カシ類のなかで最も堅果が大きい。

葉:葉の外側の先端部分のみに鋸歯があり、テカテカとした緑色をしている。かなりはっきりとした側脈も特徴で、判別のポイント。


ウラジロガシ【裏白樫/ブナ科コナラ属/常緑広葉樹/
分布:本州~沖縄】

どんぐり:2年成。細長い楕円形嬢で、ラグビーボールのような堅果が一般的だが、なかには球状のものもある。小さくて浅い殻斗には輪層状(横島)の模様がある。殻斗は脱げ落ちやすく、落下しているものは別々の場合が多い。

葉:名前の通り、葉の裏側が白っぽい。外側がウネウネと波打っており、どんぐりよりも葉の形状で判別するほうがわかりやすい。


シラカシ【白樫/ブナ科コナラ属/常緑広葉樹/
分布:本州~九州】

どんぐり:1年成。殻斗にはだいたい6段ほどのはっきりとした輪層状(横島)の模様があり、毛は生えていない。堅果の半分程度を覆う大きな殻斗が最大の特徴なので、ここで判別するのがわかりやすい。

葉:葉の外側には、見わけにくいほど小さなウネウネとした鋸歯がある。葉の裏側は、白っぽい薄い緑色をしている。


アラカシ【粗樫/ブナ科コナラ属/常緑広葉樹/
分布:本州・四国・九州】

どんぐり:1年成。無毛の殻斗には、輪層状(横島)の模様がある。樽のような形状のものが一般的な堅果には、白い縦縞模様が入っている。1~2月といった冬季になっても落果させない個体もあり、どんぐりのなかで実りが最も遅い。

葉:葉の半分あたりから上側だけがギザギザとした鋸歯状。表側は濃い緑色で、裏側は白っぽく、はっきりとした葉脈を持つ。


ハナガガシ【葉長樫/ブナ科コナラ属/常緑広葉樹/
分布:四国南西部~九州中南部】

どんぐり:2年成。自生地が非常に狭い範囲に限定され種で、環境省レッドデータブックの絶滅危惧種に指定されている。輪層状(横島)の模様がある堅果は、樽型形状のものが多く、縦ジワがある。殻斗は、まさにお椀型。

葉:名前の通り、細長い形状の葉を持ち、カシの仲間のなかでいちばん細長い。外側先端が鋸歯状。裏側はテカテカとした緑色。


イチイガシ【一位樫/ブナ科コナラ属/常緑広葉樹/
分布:本州~九州】

どんぐり:1年成。ビロード状の毛で覆われた殻斗には、輪層状(横島)の模様がある。堅果の半分近くを覆っている。堅果にははっきりとした縦縞模様が入っており、先端部分に白い粉上のような毛が生えている。

葉:葉の外側半分ぐらいから上がギザギザとした鋸歯。裏側は薄い白褐色で、綿毛が密生しているので判別しやすい。


オキナワウラジロガシ【沖縄裏白樫/ブナ科コナラ属/常緑広葉樹/
分布:奄美大島~沖縄】

どんぐり:2年成。最大の特徴は大きさで、日本でいちばん大きなどんぐり。本州に分布するウラジロガシとは大きさはもちろん、形状もまったく異なる。殻斗には横縞模様がある。とても珍しく、見つけるのが非常に難しい。

葉:名前の通り、裏側は粉っぽい白い色をしていて、外側に緩やかなウネウネがある。長さが8~15cmほどあり、どんぐり同様大きい。


スダジイ【すだ椎/ブナ科シイ属/常緑広葉樹/
分布:福島以西~九州】

どんぐり:2年成。細長くて先の尖った堅果全体を殻斗が包んでおり、落下時期になると3つに裂ける。堅果は、アーモンドのような形状の三角錐型が一般的。個体差があり、なかには球形のものもある。

葉:外側の先っぽ部分のみにわずかな鋸歯があり、先端が細く尖っている。その他は滑らか。裏側は白っぽく、主脈がはっきりとしている。


ツブラジイ【円ら椎/ブナ科シイ属/常緑広葉樹/
分布:関東以西~九州】

どんぐり:2年成。名前の通り、小粒でまん丸な堅果が特徴。どんぐりのなかでいちばん小さいその形状から「コジイ」とも呼ばれる。殻斗が堅果全体を包み込み、熟すと3~4つに裂けるところも大きな特徴。

葉:裏側が白っぽく、先端が細く尖り、スダジイの葉とよく似ているが、外側はほとんど全部なめらかなカーブのラインを描く。


マテバシイ【全手葉椎・馬刀葉椎/ブナ科マテバシイ属/常広葉緑樹/
分布:本州~沖縄】

どんぐり:2年成。細長い砲弾型の堅果の形状が大きな特徴。殻斗は白いロウ状の物質が薄く付着している。非常に浅く脱げ落ちやすい。このふたつの特徴から、どんぐりのなかでも判別しやすいもののひとつ。

葉:外側はギザギザがまったくない滑らかなカーブを描く。裏側は薄い緑色で、はっきりとした主脈を有する。


シリブカガシ【尻深樫/ブナ科マテバシイ属/常緑広葉樹/
分布:近畿以西~沖縄】

どんぐり:2年成。マテバシイ同様、殻斗の表面が粉を吹いたような白いロウ状の物質に覆われている。堅果の底(尻)の部分が少しへこんでいることから、尻深樫と名付けられた。落果直後の堅果は、磨くと光沢が出る。

葉:葉もマテバシイ同様、外側は滑らかなカーブのライン。先端部分のみギザギザした鋸歯を有する個体もときどきある。


「どんぐり」の分類一覧表

「どんぐり」と「葉」の特徴 一覧表

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