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【 “木”になるマメ知識】何が違うの? 紅葉の主役「モミジとカエデ」のもうひとつの楽しみ方
日本の秋を彩る紅葉の主役といえば、モミジとカエデ。よく似た独特な葉形をしていながら、名前のルーツはそれぞれ異なる両者。その間には、日本人ならではの豊かな感性も関わる意外な秘密が隠されていました。
名前の由来は独特な葉形や色づき方
日本の秋の風物詩となっている紅葉の代表格といえば、多くの人はモミジとカエデを思い浮かべるのではないでしょうか。どちらも山地や公園など日本中のいろいろな場所で見ることができます。それぞれの葉を見比べてみると、基本的な形状はとてもよく似ていて、一見、見分けはつきません。
そんなモミジとカエデですが、名前の由来はそれぞれ異なります。モミジの由来は、「もみづ」。「もみづ」とはベニバナなどから染料を揉み出すことを意味し、平安時代頃から使われている言葉です。紅葉で色づく様子が、染料が染み出す様を思い起こさせることから「もみぢ」と呼ばれるようになりました。
一方、カエデの語源はというと、切れ込みが深い葉の形からきています。葉形がカエルの手のように見えることから、「かへるで」。それが訛って、「カエデ」となったといわれています。
微妙な違い! 見分けるコツは葉の切れ込み
名称の由来が異なるモミジとカエデですが、どちらも葉に切れ込みがあるのが特徴です。見分けるポイントは、葉の形の微妙な違い。一般的に、葉の切れ込みが多く5つ以上あり、しかも切れ込みが深いものがモミジ。一方カエデは、切れ込みが浅く、品種によっては切れ込みが3つなど少ないものとされています。また葉の大きさでも、比較的小さいものがモミジで、大きめのものがカエデとして定義されています。
紅葉のときの色づき方でも見分けることができます。どちらも美しく紅葉するのですが、モミジのほうが、カエデに比べて目立って葉の色が変わります。
具体的にイメージするなら、モミジではイロハモミジやオオモミジがわかりやすいでしょう。なかでもイロハモミジは日本で最もよく見られる種で、紅葉の名所となる公園などで馴染み深い樹木です。対してカエデは、イタヤカエデやトウカエデが〝カエデらしい〟といえそうです。
手のひらのような形状は風の抵抗を避けるため?
ところで、モミジもカエデも、ほかの樹木に比べて葉の形状がとても印象的です。なぜ切れ込みの入った不思議な姿をしているのでしょうか。一説には、吹きつける風で葉が傷まないよう、風を逃がす形状であるといわれています。日本のモミジが自生する場所は風が吹きやすい環境が多いとされます。ですので、風をまともに受けてしまわないよう、風をやり過ごしやすい形状になっているというのです。対称例を挙げれば、ミャンマーのジャングルに自生するカエデです。風がほとんど吹き抜けない場所に生育しているので、葉の形状は切れ込みがなく、楕円形をしています。
じつは同類! モミジとカエデを分けるのは日本だけ
それにしても、モミジとカエデの違いは、葉の形や大きさのちょっとした差であったり、色づき具合であったり、境界線が曖昧ですね。
それもそのはず、じつはモミジもカエデも同じカエデ科カエデ属に属している樹木なのです。例えば、イルカとクジラが生物学上は同種であるように、モミジとカエデも植物学上は分類が同じということです。
ただ、植物学という学問の世界では同類のモミジとカエデなのですが、一般論として園芸や盆栽の世界では、こうした葉の形状の違いや色づき具合によって両者をはっきりと区別されています。これもまたおもしろいことです。
中国やヨーロッパ、北米など世界各地に分布するカエデ科カエデ属の樹木ですが、モミジとカエデを区別するのは日本だけのようです。ですから、英語ではモミジもカエデも「メープル」と呼びます。
ちなみに、日本以外の国にまつわるカエデで思い当たるのはカナダの国旗でしょうか。デザインにあしらわれているのはサトウカエデという種。樹液に糖分を多く含むのでこの和名がついています。分布域はアメリカ北東部からカナダにかけてで、英語名はもちろん「シュガーメープル」です。
カエデ科カエデ属の樹木は、主に北半球の温帯地域に分布しており、種類は150~200種ほど。そのうち日本に分布しているのは諸説ありますが20~30種で、品種にすると200品種以上はあると考えられています。あまり知られていませんが、日本は世界有数のカエデ科樹木の宝庫なのです。
さてさて、今年の紅葉の具合はどんなものでしょうか? この秋、みなさんも「モミジとカエデ」をいつもとちょっと違った視点で鑑賞してみてはいかがでしょうか。秋を愛でる楽しみ方がより広がるかもしれません。
[文 ACORN編集部]