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クリスマスツリーは、なぜモミの木? モミの木やトナカイと人間との関わり

 街中が華やぎに満ちあふれて、ワクワクするクリスマスシーズン。クリスマスツリーをはじめとした、クリスマスのさまざまなアイテムは、そもそも何に由来しているのでしょうか? クリスマスツリーは、なぜモミの木なのでしょうか? この時期、街でよく目にする、ツリーやリースなどのルーツについて探ってみましょう。

クリスマスの語源や由来、飾りつけの意味とは?

「クリスマス(Christmas)」の語源は、「キリスト=Christ」+「礼拝=mas」。キリスト教の主要な行事ですが、そのルーツは、古代ローマ帝国や、ゲルマン民族の冬至の祭だといわれています。太陽神を信仰していた人々にとって、日照時間が短くなる秋から冬は、“死が近づく時期”と恐れられていました。冬至を境に日照時間が長くなることは、太陽神の復活を意味し、その時期に祭が行なわれていたのです。それが後にキリスト教と融合し、12月25日がイエスの生誕祭とされたのだといいます。

冬も緑の葉を茂らせるモミの木は特別だった

 イエスが生誕したベツレヘムは、地中海の東にある比較的暖かい地方ですが、クリスマスのイメージとして定着しているモミの木やトナカイは、ヨーロッパ中部や北部に分布しています。これらは、イエスが生まれる前から、その地域でクリスマスのルーツとなる祭があったから、と考えると納得がいきます。ではなぜ数ある木のなかからモミの木が飾られるようになったのでしょうか?

 モミは、マツ科モミ属の常緑針葉樹で、北半球の寒冷地から温帯にかけて約40種が分布しています。日本でも、秋田県から鹿児島県の屋久島にかけて、広い範囲で自生している樹木です。ちなみに、北欧やイギリスにはモミ類は自生しておらず、入手が容易なドイツトウヒが使われることが多いとか。ほかにも、トガサワラ、ウラジロモミ、ゴールドクレストなどの針葉樹がクリスマスツリーとして使われています。

 古代ゲルマン人たちが暮らす北欧は寒さが厳しく、そのなかでも元気に緑の葉を茂らせている常緑樹は、「永遠の命の象徴」として、特別な存在だったそうです。また、中世のドイツでは、モミの木には小人が宿るとされており、食べ物や花を飾ると、小人が集まってきて、人間に力を与えてくれると信じられていました。これらの常緑樹信仰が、クリスマスツリーのルーツだといわれています。

 クリスマスツリーの飾りつけにも、意味があります。いちばん上にはトップスター、枝にはカラフルなボールやベル、杖型のキャンディ、天使の人形などを吊るし、根元にはプレゼントの包みを置く、というのが一般的なパターンですね。

 トップスターは、キリスト生誕時に、賢者たちをベツレヘムへ導いた星を表しており、赤い玉はアダムとイブが食べてしまった知恵の実、リンゴを表しています。先がカールしたキャンディは、羊飼いが使う杖です。羊飼い杖は、群れからはぐれそうになった羊を引き戻すのに使われていたことから、人々の助け合いの心を表しています。

 近年は、生きた木に飾りつけをしてクリスマスツリーとするのが流行しています。針葉樹の鉢植えを買う人も多く、また、子どもの誕生を祝って庭にウラジロモミやドイツトウヒを植え、共に成長してゆくのを楽しみにしている家庭もあるようです。

 

モミの木は雪の中でも葉が枯れない。

 

リースに使われるヒイラギにはどんな意味がある?

 モミの木と同じく、ヒイラギもクリスマスには欠かせない植物です。濃い緑の葉っぱと、鮮やかな赤い実は、コントラストも美しく、クリスマスらしさを感じさせる彩り。ヨーロッパ西・南部から、アフリカやアジアの一部まで分布しています。

 日本で「ヒイラギ」と呼ばれている樹には、「クリスマスホーリー」の別名があるモチノキ科の「セイヨウヒイラギ」のほか、同じくモチノキ科の「ヒイラギモチ(シナヒイラギ)」、モクセイ科の「ヒイラギ」があります。モクセイ科のヒイラギは冬に花が咲くため、クリスマスの時期は実がありません。

 日本におけるヒイラギは、昔から邪気を払い魔除けの力を持つ特別な植物とされてきました。節分に、焼いたイワシの頭を刺した「柊鰯(ひいらぎいわし)」を玄関先に飾る風習はよく知られています。クリスマスにヒイラギを飾るのにも理由があります。トゲのある葉は、イエスが十字架にかけられたときにかぶせられたイバラの冠を、赤い実は太陽の炎とイエスの血を象徴しています。イエス・キリストの足元から生えた植物ともいわれ、「聖なる樹」とされているのです。

セイヨウヒイラギは春に花が咲き、クリスマスの時季に実をつける。

サンタのソリを引っ張るトナカイと、北欧の人々

 サンタのソリを引くのは立派な枝角を持つトナカイというのが定番イメージになっていますが、その由来となったのは、19世紀に書かれた一冊の詩集の挿絵。『聖ニコラウスの訪問』という題名で、神学者であったクレメント・C・ムーアが、自分の子どもたちのために書いたもので、これが絵本として出版されたことから、世界中に広まったそうです。

 トナカイは、北極圏から亜寒帯にかけてのエリア、北欧のグリーンランドやノルウェー、フィンランド、ロシアのシベリアなどに分布しているシカの仲間。日本のシカと違ってオス・メスともに枝状の角があるのが特徴です。特にオスの角は、1mを超えることも。また、トナカイは1年中ツノが生えているわけではなく、オスは秋から冬に抜け落ち、メスは春から夏に抜け落ちて生え変わります。

 北欧からシベリアにかけてのエリアでは、トナカイは古くから家畜として飼育されてきました。乳、食肉、毛皮を利用するほか、雪の上でも走れるので、ソリを引いたり、馬のように人が乗ったりすることもできます。人類が最も古くから家畜化した動物のひとつだといわれています。

現代ではそのツノが滋養強壮剤としても使われているトナカイだが、人間との深い関係性が古くからあった。とはいえ、やはりサンタクロースのソリを引くイメージがメルヘンですね。

 クリスマスにまつわる植物は、昔から人々の間で特別なものだったとわかりました。また、トナカイはサンタにとってだけでなく、北欧に暮らす人々にも欠かせない動物だったことがうかがえます。生物という視点でクリスマスを見てみると、歴史や環境などのバックグラウンドをも垣間見ることができますね。

 ところで、近年アメリカでは、「メリークリスマス」ではなく、「ハッピーホリデイズ」というあいさつが増えているそうです。いろいろな宗教の人々が暮らす国なので、キリスト教以外の人々に配慮した言葉なのでしょう。

 もうすぐクリスマス。どうぞ、みなさんもクリスマスアイテムに関連する植物や動物に思いを巡らせながら、「ハッピーホリデイズ」を。

[文 ACORN編集部]

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