Column

深刻な海洋漂流プラスチックごみ問題。どうしたら減らすことができるのか?

 近年、海洋漂流ごみの問題について、国際的な関心が高まっています。なかでもプラスチックごみの問題は深刻で、コーヒーショップやファーストフード、ファミレスなど、大手外食チェーンでも、プラスチック製のストローなどを廃止する動きが広がっています。ストローばかりが悪者のようにも聞こえますが、私たちの身の回りには、スーパーやコンビニでもらうレジ袋やペットボトルなど、安価で便利なプラスチック製品であふれています。

世界の海に漂うプラスチックごみ

 日本でも平成22年度から、沿岸の漂着ごみや海底に堆積する海底ごみ、さらには沖合においても、海洋ごみの実態調査を行なってきました。そうした調査分析の結果、なんと、海洋ごみの8割から9割が、プラスチック製のごみであることがわかりました。ナイロン製の魚網やポリエチレン製の浮子など、海洋で使用された漁具等に加え、ペットボトルやビニール袋、パッケージの外装など、そのほとんどは、内陸で私たちが普段使っている生活ごみでした。

砂浜に混入したマイクロプラスチック などのプラスチック片。

毎年、ジャンボジェット機5万機分のごみが海へと流入

 黒潮や対馬暖流の上流にあたる沖縄や九州など、東シナ海や日本海側では、海外から流れ着いたごみの割合が多く、瀬戸内海や太平洋岸などでは、国内で発生したごみが多いことがわかりました。プラスチック製のごみは、陸上でポイ捨てされ、または風などに飛ばされ、河川から海へと流れ込み、自然分解されることなく、海流や風に乗って海上を半永久的に漂い続けます。「名も知らぬ、遠き島より流れ着く」のは、ヤシの実ではなく、いまやプラスチックごみなのです。すでに世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみは、合計で1億5,000万トン。さらに、世界で年間に生産されるプラスチック製品の3%にあたる約800万トンが毎年、ごみとして海に流入しているのです。

プラスチックごみをランプシェードに再利用、アートでメッセージを発信(写真=編集部)

 このままのペースでごみが海に流れ込み続けると、あと30年後には、海にいる魚の量よりも、ごみの量が上回ると言われています。そうなると、どうでしょう。魚釣りをしていても、釣れるのはごみばかり、スキューバダイビングで潜っても、海中にごみを見に行くようなもので、浦島太郎も竜宮城もいい迷惑です。

 もはや海はごみだらけです。ウミガメや海鳥などの海洋生物が、それらのごみに絡まったり、間違って食べてしまったりして、命を落とす被害が多数報告されています。そのような生態系を含めた海洋環境の悪化は、漁業や観光だけでなく、私たちの生活にも深刻な影響を及ぼしています。白い砂浜、青い珊瑚礁、色とりどりの魚たちという光景は、近い将来、本当におとぎ話だけの世界になってしまうかもしれません。

日本周辺海域はマイクロプラスチックのホットスポット

 さらに近年、深刻な問題となっているのが、マイクロプラスチックの問題です。マイクロプラスチックとは、5mm以下のサイズになったプラスチックのことで、洗顔料や工業用の研磨剤に使われるマイクロビーズなど、初めからごく小さなサイズで作られたものから、プラスチックごみが、紫外線や加水分解などにより、劣化して微小な破片になったものや、フリースやナイロンたわしなどの繊維ごみまで、これまで海に流れ込んだマイクロプラスチックは、大きなごみと違い、もはや回収することは不可能です。

 しかもマイクロプラスチックは、目に見えないばかりか、海洋を漂流中に有害な化学物質を吸着してしまうこともあります。プラスチックそのものの有害性だけでなく、それらを摂取したプランクトンなどの微小な生物を、ほかの生物が食べる、食物連鎖の中で、さらに有害な物質が高濃度に蓄積され、それを食べている人間への影響や危険性が懸念されています。

 環境省によるマイクロプラスチックごみの実態把握調査によると、日本周辺を含む東アジア海域は、北太平洋の16倍、世界の海全体の27倍もの密度でマイクロプラスチックが多く含まれる、ホットスポットであることがわかりました。

 海流や風の影響で日本周辺に流れ着くごみだけでなく、日本国内の河川を通して海に排出されるプラスチックごみもかなりの量になります。日本は排出国の当事者でもあったのです。そんななか、昨年、京都府の亀岡市では、プラスチックごみゼロ宣言と称し、2020年度を目標にプラスチック製レジ袋の使用を禁止する条例の制定をめざす方針を明らかにしました。世界ではすでに60カ国以上でレジ袋の使用や製造は禁止されていますが、もし実現すれば、日本で初めての画期的な試みとなります。

近年、風光明媚な保津川でもプラスチックごみが多く目立つようになった。

筏流しの復活と流域の思想

 亀岡市は、海に面してはいませんが、1本の川で海と繋がっています。丹波山地に源を発した大堰川が山間を抜け、亀岡市に至ると、保津川と名前を変え、美しい峡谷風景が嵯峨嵐山へと続きます。そして桂川と名を変えた保津川は、鴨川と合流し、さらに淀川に入り、海へと流れ出ています。流域には京都、大阪という大都市もあり、排出そのものを減らさないと、大量のプラスチックごみが、海へと流れ出てしまいます。

 そんな保津川では、丹波山地で切り出された材木を筏に組んで、京の町へと運ぶ筏流しが昭和30年代まで盛んに行なわれていました。流域の集落は筏流しの拠点として栄え、現在の亀岡市の基礎をつくりました。しかし、保津川の筏流しは鉄道の開通やトラック輸送の普及などにより、行なわれなくなりました。そこで2007年から、地域のNPOを中心に、この伝統的な技術を復活させることが、保津川の流域の暮らしや文化の再発見、そして環境保全の向上につながるとして、筏復活プロジェクトが開始され、今年2月には約60年ぶりに、長さ50メートルにもおよぶ12連の筏を嵐山で浮かべることができました。

 保津川ではこれまでにも、筏流しの復活だけでなく、1本の川を通した循環型社会の構築をめざし、川と人との関係性を見つめなおす、さまざまな取り組みを行なってきました。これは保津川モデルとも呼ばれ、参加者や地元企業、団体が連携して、他の川や地域にも還元できる、環境保全と未来志向のまちづくりの取り組みです。

保津川クリーン作戦と名付けられた市民参加型の清掃活動は100回以上にもおよぶ

Think Global, Act Local

 今回、亀岡市で宣言されたプラスチックごみゼロ宣言も、そのような背景をベースに市民の声が議会を動かし、条例の制定をめざすという形となったのです。条例の制定がゴールではなく、これをきっかけにして、私たちひとりひとりが、地球環境に想いを巡らせ、レジ袋や使い捨てのカップは使わない、木や紙、金属などの再利用が可能な製品を使う、といった身近なところからプラスチックごみを減らし、ライフスタイルの見直しへとつなげ、自然とともに豊かに暮らす、持続可能な社会をつくり上げていくことが重要なのです。

(写真=プロジェクト保津川 原田禎夫)

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