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素朴な疑問シリーズ1――森の水は、なぜ美味しい?
日本にたくさんある湧き水スポット。自由に汲める水汲み場がある場所には、美味しい水を求めて多くの人が足を運んでいます。また、良質の水は、地元のさまざまな名産品の生産にも役立っています。そもそも湧き水は、なぜ美味しいの? 今回はそんな素朴な疑問を追求してみましょう。
湧き水は地元でどんなことに使われる?
湧き水は、山間部に降った雨や雪が地面にしみ込み、再び地表に湧き出したもの。農業用水や飲料水、生活用水などに使用されるほか、キレイな水でないと育たないといわれるワサビの栽培や、ソバ作りにも使われています。また「よい水を使っていること」で美味しくなるといわれる酒造りにおいても重要な存在です。
北アルプスの雪解け水が湧き出る長野県では、ワサビの栽培やソバ作り、酒造りなどが盛んですね。静岡県も、富士山周辺の湧き水が豊富な地域に酒蔵が多くあり、雨の多く降る伊豆半島は日本一のワサビ産地として知られています。
湧き水はどうやって湧いているの?
では、湧き水はどこからやってくるのでしょうか。山に降った雨や雪は、地下にゆっくりとしみ込み、長い年月をかけて土や落ち葉、枯れ木などでろ過されていきます。そして余分な汚れが取り除かれ、地中の成分を吸収し、ミネラルが豊富な水となって地上に湧き出てくるのです。
地表の水が地中へと浸透し、再び湧き出てくるまでにかかる期間は、地層や岩石の性質によって違いますが、数年~十数年、場所によっては数百年という場合もあります。川の源流点も、湧き水の一種といえます。
湧き水はなぜ美味しいの?
ところで、なぜ、湧き水は「美味しい」と感じるのでしょうか。じつは、これにはきちんとした科学的根拠があります。湧き水にはミネラル成分や二酸化炭素、ケイ酸を適度に含んでいるのがその理由なのですね。
富士山が育んだ湧き水を一例にあげると、富士山の雪解け水や雨水が長い年月をかけて地層を通る際、カルシウムやマグネシウム、バナジウムなどの豊富なミネラル成分を取り込みます。このミネラル成分を、人間の味覚は「美味しい」と感じるのです。
ただし、ミネラルは多ければ多いほどよいというわけではありません。厚生省(現・厚生労働省)が1984(昭和59)年に設立した「おいしい水研究会」によると、人間が美味しく感じるのは、「蒸発残留物(ミネラル)の含有量が30~200mg/ℓの水」とされています。適度に含まれるとまろやかな味ですが、これより量が多いと苦味や渋味が増してしまいます。富士山山系の水は、60~135mg/ℓと、まさに適量のミネラルを含んでいるのです。
そもそも湧き水って飲んでいいの?
ところで、湧き水の人体への影響が気になる人もいると思います。湧き水は浄水処理や消毒が行なわれていません。水道法の適用外となっており、水質検査も行なわれていないため、安全性は立証されていないのは事実です。上流にある各種施設の排水による影響もゼロとはいえません。湧き水を汲んで持ち帰った際は、飲む前に一度、煮沸をするほうが安心です。
とはいえ、日本百名水などを始め、名もなき湧水や人里離れた清流などなど、美味しい水は日本各地に点在しています。こうした美味しい水があるということは、健全で魅力ある森、山、自然があるということにも繋がっています。美味しい水とともに豊かな自然をもぜひ味わってみてください。
[文 ACORN編集部]