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森の基礎知識シリーズ――「広葉樹」と「針葉樹」はどう違うの?

世界中に分布し、地球上を美しい緑に彩る樹木には、大きく分けて「広葉樹」と「針葉樹」の2種類があります。同じ樹木でありながら、見た目も内部構造も、生育区域も、まったく異なる特徴を持っているのです。

2種類の木のいちばんわかりやすい特徴は?

まずは葉の形をよく観察してみましょう。広葉樹と針葉樹では、葉の形が驚くほど異なります。広葉樹の葉は、広くて平べったい形。ツルツルとした楕円形から、モミジに代表されるようなギザギザの切れ込みが入った形まで、個性豊かです。なかには、トチのように何枚かの葉が集まってひとつの葉を形成する「複葉」というタイプもあるのです。

一方、針葉樹は文字通り、針のように細く尖った形状が一般的です。スギやモミ、マツは、針葉樹の代表格といっていいでしょう。針葉樹なのに平べったい葉をしたイチョウやナギという樹木もありますが、一部の例外的なものに限られます。

針葉樹の代表格であるスギの葉は、読んで字のごとく針のように尖った葉をしています。
楕円形で平たく薄いブナの葉は、広葉樹の典型的な葉といえます。

広葉樹と針葉樹の違いは、葉の形だけではありません。樹木の形状も見分けるポイントです。広葉樹は、枝分かれして丸くこんもりと育ちますが、針葉樹は上に真っ直ぐ伸び円錐形の樹形になることが多いのです。広葉樹はサクラ、針葉樹はクリスマスツリーのモミの木をイメージするとわかりやすいでしょう。そして広葉樹の場合は、冬に葉を落とす「落葉樹」と、季節を問わず葉をつけている「常緑樹」の2種類があります。対して針葉樹は、冬でも葉を落とさない「常緑樹」が大部分を占めています。

目に見えない違いもあるってほんと?

広葉樹と針葉樹を分ける特性は、見た目だけではありません。じつは、細胞や組織といった内部の構造がまるで違います。広葉樹は組織構造が複雑で細胞の種類が多いのですが、針葉樹は広葉樹に比べて細胞組織の構造が単純。樹木の細胞組織の間には空気を通す穴が無数に空いているのですが、広葉樹の場合は細胞の密度が高いため穴が少なく、逆に針葉樹は細胞密度が低いために穴が多く空いています。この差により、広葉樹は硬く重い材質となり、針葉樹は柔らかく軽い材質となるのです。

スギやヒノキなどの針葉樹はよくしなるため、桶や樽の素材として使われます。

樹形や硬さの特性を活かし、木造住宅では古来、広葉樹は傷がつきにくいことから床の材料などに用いられ、幹が真っ直ぐな針葉樹は柱などに利用されてきました。

こうしたそれぞれの特徴があるふたつの樹種ですが、広葉樹はなんと世界に20万種以上存在するといわれます。対して針葉樹は500種ほどしかありません。圧倒的に種類が豊富な広葉樹ですが、進化の過程で見れば針葉樹が祖先にあたり、広葉樹は針葉樹から分かれて進化してきた植物と考えられているのです。

生育する地域はそれぞれどんな場所?

見た目も内部構造も異なる広葉樹と針葉樹ですから、もちろん生育地域も同じではありません。大きく分けると、広葉樹は暖かい地域、針葉樹は寒い地域に分布しています。例えばアマゾンのような熱帯地域では広葉樹林が発達します。大規模な針葉樹林が広がるのは北欧やロシアなどの寒冷地。また、標高が高い場所にも針葉樹が生育しています。

雪に埋もれる針葉樹林。寒さに強く、真冬でも葉を落としません。

日本の場合はどうでしょうか。広葉樹は日本各地に分布していますが、北海道や東北など涼しい地域では落葉樹、比較的温暖な南の地域では常緑樹がそれぞれ多くなっています。針葉樹はというと、日本では昔から全国的に人工林としての植栽が進められてきました。スギ、ヒノキ、カラマツが植林木として有名です。また山岳地帯ではマツなどの針葉樹が天然林として分布しています。

日本ではほとんど見られなくなった「照葉樹」の森林

広葉樹のなかでも、特に温帯に成立する常緑広葉樹を「照葉樹」と呼びます。照葉樹の特徴は、表面にクチクラ層(角質の層)が発達し光沢のある深緑色の葉を持つことで、日本ではシイやカシなどが照葉樹に該当します。

日本南西部のほか、ヒマラヤ、東南アジアの山岳地など、降雨量の多い温帯から亜熱帯に森林が広がります。

ツバキも照葉樹の仲間。濃い緑のツヤツヤした葉をつけています。

かつて、照葉樹の森林は日本の全土に広がっていました。しかし開発による過度な森林伐採により、照葉樹林は失われ、現在の全照葉樹林の面積は日本の総森林面積のたった1.2%程度に過ぎません。九州の宮崎県には約2,500ヘクタールという日本最大級の照葉樹林が広がっていますが、そのほかは、香川県の金毘羅宮、三重県の伊勢神宮のように、社寺林として残っているものがほとんどです。森林大国と呼ばれる日本において、残念ながら照葉樹林はごくわずかというのが現状です。

照葉樹林は、ドングリなど堅果(けんか)類の恵みをもたらし、日本の原点とも呼べる縄文文化の成立と発展に欠かせない森林でした。食物以外にも、ウルシの木から樹液を採って漆器を作る技術も、照葉樹林が発祥となっています。近年は照葉樹林を取り戻す森づくりの市民活動も盛んになってきました。森づくりは長い年月を要するプロジェクトですが、地道な努力が各地で続けられています。

[文 ACORN編集部]

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