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乾燥が難しい「トドマツ」で家具をつくる! これまでできなかった新技術へのチャレンジ。

北海道に多数植林されているトドマツだが、樹木の特性からその用途は非常に限られたものであった。

 水分の偏りがあるため乾燥することが非常に困難とされてきた「トドマツ」。家具用材としてはもちろん、建築用材としてさえ使用することがとても難しい。そんなトドマツをなんとか利用したい。2011年12月、これまで蓄積してきたオカムラの木材乾燥技術のノウハウをベースに、北海道林産試験場や地元企業とタッグを組んだ‟「トドマツ」の家具用材化”というプロジェクトが始まった。

トドマツの乾燥を可能にした技術と
地元とのコラボレーション

 北海道八雲や長万部に演習林を持つ日本大学生物資源学部。本校新校舎建設に際して、ひとつのアイディアがあった。演習林から伐採したトドマツを有効利用したベンチを製作したい、というものだった。北海道の広大な森には自然林はもちろん、人工林も非常に多く存在する。日本大学の演習林もそのひとつであり、40~50年前の拡大造林が進んだ時代にトドマツが大量に植えられた。そして、そのトドマツが成熟期を迎えつつあった。

 このトドマツを利用しない手はない……。だが、そこにひとつの問題が浮上する。トドマツの樹種の特性として、丸太内の水分に大きな偏りがあり、用材として最も重要な「材の安定した均一な乾燥」をすることが非常に困難、というものだった。そのため、土木用の土止め材や梱包用の木枠などへの利用が、当時はトドマツの活用法の限界だった。家具用材や建築用材として、トドマツは不向きな樹種だったのである。

 そんななか、このアイディアを実現すべく白羽の矢が立てられる。オカムラの技術であった。これまで蓄積してきたオカムラの木材乾燥技術のノウハウによって、トドマツの家具用材化を実現してほしい。痛切な願いが込められた依頼だった。

 日本大学の環境資源に対する熱い想い、資源を有効活用したいという情熱を受け、オカムラの技術者と関係スタッフが立ち上がった。とはいえ、オカムラにとってもトドマツの家具材への利用は初の試みだった。今回のプロジェクトには、多くの試練が立ちはだかっていた……。

 オカムラの技術者はさっそく北海道へわたり、現地演習林のトドマツの調査を開始する。結果はやはり、「家具用材はもちろん、建築用材としても使用が難しい」というものだった。「北海道は自生も植林も含めてトドマツが非常に多い。このトドマツを用材として活用できれば、地元の経済的効果に大きくつながる」。そんな想いから北海道の林産試験場などでも、長年にわたりトドマツの用材化研究が行なわれていた。だが、現実は厳しく、これまで思うような成果を上げることができなかった。

 こうした事情があったものの、オカムラは決してあきらめなかった。そこから徹底した研究が始まったのである。 地元でトドマツの有効活用を目指す上川地域水平連携協議会に所属する地元企業をはじめ、北海道林産試験場と本格的にタッグを組み、プロジェクト実現への一歩を踏み出した。ところがここでも問題が浮上する。研究を進めるうえで、丸太のサイズなどかなり細かい指定に対応した材を用意する必要があったのだが、これがうまくいかない。地元の関係者の多くは現状に満足しており、必要な材の入手が非常に困難だったのである。テストをするための適切な材が手に入らなければ、研究は何も進まない。そのため、まずは山の人とその中間で製材する人たちとの意識の違いを埋め、今回のプロジェクトに向けたモチベーションを地域全体で高める必要があった。

 何度も何度も山に足を運んだ。トドマツの有効活用、ひいては地元経済の活性化など、地元関係者と徹底的に話し合った。次第に信頼関係が生まれていった。協力してくれるグループも徐々に増えていった。結果、テスト用の材が入手できようになったのだ。

 ようやく様々な検証と実験が始まった。テストが繰り返され、徹底的にトドマツを用材化するための乾燥方法を研究し続けた。

 トドマツは何度もいうように、乾燥させることが非常に難しい。工場に置いているだけで曲がってしまう。背割りをすると別の場所から割れてしまう……。そんな特性を持つトドマツだったが、研究を積み重ねるなか、ひと筋の光明が見えはじめた。

「水分量ごとに木を選別し、少量ずつ乾燥室で観察しながら、ていねいに含水率を一定にしていく」

 およそ2年という時間を、この実験・研究に費やした。そして……、ついに建築用材としてのレベルをクリアした。さらに4年目、家具用材としてのレベルもみごとクリアする。飛躍的な進展を遂げるに至ったのである。

径級の違いによる材の特性を検証するために伐り出した180本のトドマツの丸太(直径24cm×3.5m)。

研究の成果が実を結んだ
トドマツ間伐材を使用したベンチ

 地元関係各社との協力のもと、ついにオカムラはトドマツの用材化の実現を達成した。作品第一号は、「ベンチ」である。 「トドマツの家具用材利用を可能にしたのは、ていねいに行なった乾燥の技術に加え、ベンチのデザイン設計における工夫もあったんです」。 開発に携わった技術者、スタッフがそう声をそろえる。

 使用する材の厚みや太さが多種にわたると、乾燥の行程でそのどれかにどうしても不備が出てしまう。そうなると、用材化は成立しない。そこで考えたのが、デザイン的な観点だった。

「使用する家具用材を90ミリ角に統一することで、不具合による代替をしやすいように考慮しました。また、トドマツのゆがみや伸縮対策として、目地をあけて逃げを設け、空間を作って風通しをよくすることで湿気がたまらないような工夫も施したんです」

 日本大学生物資源学部校新校舎に、試作品がさっそく設置された。スタッフは、2週間ごとに現地に赴き、含水率の測定を1年間続けた。結果として含水率の動きはあったが、各部材の数値が均一に変動し割れる可能性が少ないことがわかった。製品としての製作が可能になった瞬間だった。

 研究前は大量の丸太を集めても、納得のいく良品ができる確率が非常に低かったという。山から伐り出し製材をすると、途中で割れてしまうもの、乾燥途上で割れてしまうもの、集成の過程で割れてしまうものもあった。廃棄のコストも含めると、ベンチ200台を製作するためのコストは数億円にものぼってしまった。だが、研究の成果により、コストは数千万円にまで激減した。効率よく丸太を運び、製材乾燥することで、伐採、製材、集成、廃棄、運送等の費用を抑えることを実現したのである。

「トドマツ」用材化にチャレンジするプロジェクト開始から4年、オカムラと地元企業等とのコラボレーションによって、プロジェクトの成功を見るに至った。

 北海道の産業に大きく貢献する画期的な製品と技術が生まれ、その後、トドマツの価値が飛躍的に上昇する。開発者、技術者、関係スタッフの情熱が新たなシーンを生み出し、家具の歴史に画期的な1ページを刻んだ。オカムラのチャレンジは、今後ももちろん続いてゆく。

日本大学生物資源学部校新校舎に設置された「トドマツ」のベンチ。木材の乾燥技術とともにデザイン設計の工夫も込められた画期的な作品。地元産業へも大きな貢献を果たした。

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