Column
太陽光というエネルギーの恵み-その2「地球の誕生と生命の発生を考える」
地球のもとは太陽の周囲を回る星間ガス
NASAは2009年、地球と似た惑星を探すことを目的に「ケプラー宇宙望遠鏡」を打ち上げています。その探査によれば、比較的地球に似ているとされる惑星はこれまで4,700個ほど発見されているとのこと。ただし、そのなかでハビタブルゾーン(生命が存在する可能性が考えられる恒星との距離)内にある惑星はわずか11個。2015年には、地球から1,400光年離れたところに地球環境によく似ている惑星「Kepler-452b」を見つけましたが(存在を否定する意見もある)、それでも直径は地球の1.6倍、重力は2倍もあって、生命存在の可能性は考えられるものの、まだまだ地球そっくりとはいい難いようです。
さて、水も空気も豊富、生物が生きていくための素晴らしい自然環境に恵まれている現在の地球ですが、誕生当時はただの燃える火の玉でした。地球が誕生したのは45億4,000万年前(誤差±5,000万年)くらいと推定されており、太陽の誕生から少しあとという感じですね。
太陽ができたあとに残った星間ガスや塵は円盤のように太陽の周囲を回り始め、やがてそれらは凝縮し、直径数km程度の小さな塊(微惑星)となります。これはその後にできる大きな惑星の“タネ”のようなもの。タネはさらに成長を続け、円盤のなかでも太陽に近いエリアでは金属を多く含む「岩石惑星」が形成されていきました。
岩石惑星は、周囲に散らばっている似たような小さい岩石惑星を自らの引力で引き寄せて合体し(隕石の衝突)、どんどん巨大化していきます。そして成長を遂げたのが現在の水星、金星、地球、火星なのだといいます。ちなみに、同じ太陽系の木星や土星、天王星、海王星は岩石惑星ではなく、広義に「ガス惑星」に分類されます。
火の塊から水の惑星へ地球が進化
地球は太陽と同様に星間ガスから生まれているので、原始地球の大気成分はやはり太陽と同じくヘリウムと水素が主体です。生まれたばかりの地球の表面はマグマの海で、数千℃の高温で燃えまくっていました。ただし、ヘリウムと水素は非常に軽い成分なので、「太陽風」と呼ばれる原始太陽から飛び出してくる高温の粒子によって、数千万年のうちにほとんどが吹き飛ばされてしまったのではないかと考えられています。
やがて、太陽風は太陽の成長とともに弱まっていき、地球の表面温度も徐々に低下。マグマが冷えていくと地殻ができ、地殻上では多くの火山が噴火を繰り返します。それに伴い、大量の二酸化炭素やアンモニア、また微量の水蒸気や窒素が地表に放出されていきました。
この頃の地球の大気成分の大部分は二酸化炭素です。また、一酸化炭素や窒素、水蒸気などもわずかに含まれていて、現在の金星の大気に近いのではないかと考えられています。そして、長い年月をかけて地球がさらに冷えていくと、水蒸気も冷やされて雲を作り、雨となって地表に降り注いでいきます。雨は何万年も降り続け、やがて地表は水に覆われて海となりました。地球がこのように火の惑星から水の惑星へと変化したのは、今から40億年くらい前と考えられています。
太陽エネルギーが有機物を作り出し、生命発生を促した
できたばかりの海は強い酸性でした。しかし、その酸性が岩石のカルシウムを溶かし、海はだんだん中和されていきます。この時代の海には80種類くらいの元素が溶け込んでいたのではないかと考えられています。
この頃の地球の上空には遮るものがないので、太陽から強烈な紫外線が容赦なく地表に降り注いでいました。また活発な火山活動により、大気中では激しい雷放電も常に発生していました。これらの強烈なエネルギーが大気中の二酸化炭素や窒素など無機物に作用し、また海中の元素が結び付いて、やがてアミノ酸や核酸塩基、糖といった有機物質を生成していきます。
有機物は生物の材料でもあるわけで、今から約38億年前、いよいよ地球上に最初の生物が発生します。ということは、つまり、太陽エネルギーが原始の生命を作り出したともいえるのではないでしょうか。
光合成が地球環境を劇的に変貌させた
初期の生物は核を持たない単細胞の原核生物でした。原核生物は、今でいうところの細菌のような形態と考えればいいでしょう。地表には相変わらず太陽から強烈な紫外線が降り注いでいるので、この頃の生物は陸上で生きていくことができません。したがって、生物の生活の場は海の中でした。
また、大気中には酸素もないので、生物は嫌気呼吸で海の中の有機物を利用して生息していました。しかし、そうした状態から数億年の時を経て、35億年前くらいから原始生物もついに光合成という“特殊能力”を身に付けていきます。
現在、地上で植物が行っている光合成と、大昔の生物による水中の光合成のメカニズムはずいぶん違うようですが、しかし太陽光を取り込んで無機物の二酸化炭素と水から自分の栄養となる有機物を作り出せるようになったということは、まさに画期的な出来事といえるでしょう。
また、27億年前から19億年前くらいの期間は、地球上に藍(らん)藻類のシアノバクテリアが大量発生し、光合成で二酸化炭素から酸素がどんどん作り出されるようにもなってきました。約15億年前には、現在の動植物の基礎となる真核生物が出現。そして長い年月をかけて大気中の酸素の割合が増えていくと、今度は酸素分子に紫外線が作用してオゾンが生成され(O₂+O=O₃)、地上20~50kmあたりに、地球を包み込むようにオゾン層が徐々に形成されていきます。オゾン層は有害な紫外線を吸収するので、ここにいたっていよいよ生物(主に緑藻類という単純な植物)が海から上がり、陸上で生活できる環境が地球上に整ってきたということになります。
5億年前には陸生植物が出現して生息範囲を拡大。地上での光合成は海の中よりはるかに効率的なため、植物は進化し、そしてますます地上に酸素が増大していきます。昆虫や貝類など、背骨のない無脊椎動物の先祖はこの頃に現れています。さらに1億年ほど経つとシダ類が大繁殖して地上に森を作り出していきました。
じつは、このシダ植物の死骸が大量に堆積して石灰化したのが、現在われわれが燃料として用いている「石炭」なんです。何億年も前の植物の光合成の営みがカタチを変え、現在のエネルギー源のひとつとして地球上に蓄積されていたのですね。
当時のシダの森はどんな景色だったのでしょう? 現在の樹木の森林とはだいぶ雰囲気が違っていそうですが、しかしそんな原始の森も、今のわれわれの生活に決して無関係ではなかったということです。そしてこの頃には脊椎動物も出現し、約2億6,000万年前に地球は大型の恐竜時代を迎えることになります。
そろそろ哺乳類や人間の祖先の影が見えてきそうな感じですね。今回は地球誕生から、太陽エネルギーが生物の発生や地球環境の変化にどのように関わってきたかについて、駆け足で記述しました。ポイントの第一は、太陽光の紫外線が有機物質の生成に関与し、生物発生の一助を担ったということ。次に、太陽光と原始生物の連携による光合成が、これまで地球上に存在しなかった酸素を作り出したということ。そして、本来有害な紫外線が酸素に作用した結果オゾン層が形成され、逆に紫外線から生物が身を守ることができるようになったということ。本当に絶妙ともいうべき太陽光の恩恵で、今の地球環境が成り立っているのですね。
また、原始植物の光合成が、現在のエネルギー源のひとつとして蓄積されていることにも少し触れました。じつのところ太陽光は、光合成を通じたエネルギー循環という壮大な営みを通じて、地上のあらゆる生命に影響を及ぼしているのです。もちろん、その光合成を担っているのは樹木を中心としたさまざまな植物。次回は太陽光と植物、そしてヒトを含む動物が生きていくための太陽エネルギーの流れについてお話する予定です。
イラスト年表
「太陽誕生・地球誕生から生物発生・恐竜出現まで」
[文 ACORN編集部]