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ひな祭りを彩る華やかな「モモ」。いったいどんな木? ウメやサクラとどう違うの?
3月3日といえば「ひな祭り」。季節の変わり目に邪気を払う行事のひとつで、「上巳(じょうし)の節句」というのが正式な名称です。1月7日の「人日(じんじつ)」、5月5日の「端午(たんご)」、7月7日の「七夕(しちせき)」、9月9日の「長陽(ちょうよう)」と合わせて「五節句」と呼ばれています。
古代中国では、「奇数(陽数)は縁起がよく、偶数(陰数)は縁起が悪い」とする考え方がありました。縁起がいいはずの奇数ですが、ふたつ重なることによって、陰陽が転じるとして、奇数の同じ数字が重なる日は、要注意日とされていました。そこで、その季節に勢いのある植物を神様にお供えしたり、それらを食べたりする(身体に取り込む)ことによって、その生命力をもらい邪気を払う風習が生まれたようです。
それぞれ季節の植物と関連していますが、3月3日は別名「桃の節句」と呼ばれるように、春らしく華やぎのある桃の花が重要なアイテムとなっています。古来、モモには魔除けの力があるとされ、神秘的な植物として特別視されてきました。春の訪れを告げ、早春の時季を華やかに彩るモモにまつわる豆知識を紹介しましょう。
「モモ」は古くから日本文化に根づいていた
バラ科の落葉小高木で、原産地は中国。日本では、弥生時代の遺跡からモモの種子が発掘されていることから、かなり古い時代に渡ってきていたことが判明しています。
女王卑弥呼が治めた邪馬台国の候補地のひとつとされている奈良県桜井市の纒向(まきむく)遺跡では、2,000個以上のモモの種子が発掘されました。卑弥呼も、霊力を高めるために桃を食べていたのかもしれませんね。
また、シルクロード経由でペルシャにも伝わり、紀元1世紀頃には、オリエント諸国からギリシャ、ローマにも広がりました。
モモの古い学名「Malum persicum」は「ペルシャのリンゴ」という意味で、これがフランス語の「Peche」になり、さらに英語の「Peach」になったといわれています。
現在、日本で栽培されているモモには、花を観賞する「ハナモモ」の系統と、実を食べるための系統があり、それぞれ多くの品種があります。
果物としてのモモは、平安時代の文献に「水菓子」として食べていたという記録がありますが、当時のモモは今の人気品種のように甘味が強いものではなかったようです。ただ、いろいろな薬効も知られていて、モモの種「桃仁(とうにん)」は、消炎、鎮痛、血の巡りをよくする作用があり、生薬として利用されてきました。また、乾燥させた葉には、殺菌作用のある「アミグダリン」が含まれており、夏のあせも対策に効果があり、入浴剤として用いられてきたそうです。
「桃の節句」には白酒がつきものですが、元々はモモの花を酒にひたした「桃花酒」だったといわれています。ピンク色のモモの花びらを浮かべた盃、なんだかとても風流ですね。
モモの花の特徴とは? どうやって見分ければいい?
ところで、早春に咲くバラ科の木本植物には、モモ以外に、ウメやサクラがあります。それから、近い仲間に、リンゴやナシ、アンズ、スモモ、カリン、アーモンドなどがあり、これらの花々は姿がよく似ています。そのなかでもとりわけ見分けがつきづらいモモ・ウメ・サクラを見比べてみましょう。いったいどう違うのでしょうか。
モモ
ウメ
サクラ
それぞれの特徴をまとめてみると、次のようになります。
ちなみに、イチゴもバラ科植物(木の仲間も、草の仲間も両方あります)。そして、ビワも同じバラ科の仲間です。実や葉、大きさなどは随分違いますが、5枚の花びらとガクを持つ花をつけることは共通しています。
モモ・ウメ・サクラは開花前線のスピードも違う
一般的には、いちばん開花時期が早いのがウメで、次にモモ、追いかけるようにサクラが咲くというイメージがあります。いずれも、前年の夏に作られた花芽が、気温が低下する冬季になると休眠に入り、一定期間、低温が続くとそれがスイッチとなって休眠から目覚め、その後、気温が上がってくると開花するというメカニズムになっています。
南から北へ、暖かい地方から寒い地方へと咲き進んでいく様子を「開花前線」で表しますが、モモの場合、大体の開花目安は次の通り。
●沖縄/1月下旬~2月上旬
●九州・四国・中国地方/3月上旬~4月中旬
●近畿・東海・北陸・関東・甲信越/3月中旬~4月中旬
●東北/4月中旬~5月上旬
●北海道/4月下旬~5月下旬
ウメやサクラも、これと並行するように咲いていくかと思いきや、じつはそうではありません。ウメの開花前線はゆっくりと、サクラの開花前線は早く北上していきます。関東あたりまでは、ウメとサクラで1カ月近く差があるのですが、東北付近まで北上すると、さほど差がなくなるというように、北上するほど、それぞれの開花時期が近くなっていきます。
福島県に三春町という町がありますが、ここでは、ウメ・モモ・サクラが同時に咲くことから、「三つの春=三春町」という地名がつけられたといわれています。
せっかくなので、モモの名所を紹介しておきましょう。ひとつは福岡県の「千本花桃園」。広大な敷地の中に45種のモモが植わり、さまざまな花を楽しむことができます。もうひとつは長野県の「千曲川河川敷」。一面に桃の花が咲き乱れ、まさに桃源郷のような光景が広がります。
さて、暖冬だった今年の春は、どんなふうに春の花が咲くのでしょうか。そろそろ花便りが気になる頃ですね。
[文 ACORN編集部]