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山や森を“より安全快適に楽しむ”――デイハイキングの推奨装備(持ち物)と服装の基本

適切な装備の携行とウエアリングで、アウトドア・フィールドをより安全快適に!

 これからの季節、山や高原、森へと出かける計画を立てている人も多いのではないでしょうか。そこで今回は入門編として、デイハイキングでアウトドアを“より安全快適に”楽しむための持ち物や服装の基本を紹介しましょう。基本的な推奨装備(持ち物)と服装は、以下の通り。目的や環境などによって、さらに必要なものを加えるなどして、より安全快適な内容を目指すことが理想です。

【デイハイキング推奨装備(持ち物)と服装】

・リュックサック ・地図(とコンパス) ・雨具 ・水筒(飲み物)  ・お弁当(おやつ=行動食・非常食) ・ライト類  ・帽子、手袋  ・アウトドアシューズ  ・着替えやタオル  ・救急セット  

 それでは、特に重要なアイテムについて、以下、具体的に見ていきましょう。

事前に地図を準備し、当日も必ず携行しよう

 山や森といったアウトドア・フィールドに出かける際は、出発前に目的地の地図を用意し、必ず携行しましょう。地図は国土地理院の地形図や市販の山用地図などがお勧めです。また、登山用の地図アプリの使い方をマスターしておくこともよいでしょう。アウトドアでの原則は、「迷ったら元の道に戻る、沢に出たら絶対に下ってはいけない」です。沢筋に出ると開けているので安心して、そのまま下っても大丈夫と思い込む人が多いのですが、日本の山では沢に出ると滝が現れ、気付いたときには元に戻れなくなることが多いのです。事前のルート確認や、GPSで現在地のわかる地図アプリを活用してください。GPSや地図アプリは通ったルートも保存してくれるので、思い出の共有にも役立ちます。

晴れの予報でも雨具を忘れずに

 山の天気は変わりやすく、野外では想定外の雨が降ることもあります。雨雲レーダーでもとらえきれない雨雲が発生しやすいのが山の地形でもあるからです。晴れていても常にレインウエアを持っていきましょう。アウトドア用の透湿防水素材のものであれば、理想的です。

 野外で濡れてしまうと、とても危険です。濡れて衣類が保水してしまうと、乾かそうとする気化熱によって体温が奪われます。そうすると、夏でも低体温症になり、命に関わる状況に陥りかねません。アウトドアのレインウエア は透湿防水素材といって、濡れないことと、蒸れないことを両立しています。外の雨からはもちろん、内側が汗などで蒸れることによって、濡れて体温が下がるのを防ぐことができる命を守るグッズです。また、透湿防水素材は、蒸れないうえに風も通しません。風速1mで体感温度は1度下がるので、野外では防風衣類としても役立ちます。

レインウエア があれば 雨でも楽しい。(写真提供 Nobue Kawashima)

汗をかいても乾きやすい高機能素材のウェア

 アウトドア・フィールドでは濡れると命に関わるので、レインウエア だけではなく、保水しない服を一番内側に着ることも重要です。コットンは汗を吸うと、そのまま保水する性質をもっており、汗をかくとなかなか乾かずに、体温が奪われます。標高が100m高くなれば気温は0.6℃下がっており、冷えることが命に関わる場合もあるので、肌に直接触れるものは、汗をかいたら拡散して乾かすことができる吸汗拡散素材など、保水しない素材を使用した衣類を着用します。

帽子や手袋も大切なアイテム

 標高が1,000m高くなると紫外線は約10%強くなりますが、空気が澄んでいるとそれ以上の紫外線を浴びることになります。紫外線だけでなく、木の枝などからも頭を守りますので、帽子はとても役立ちます。吸汗拡散素材の帽子など熱がこもらない機能や工夫のあるアウトドア用のものは快適なので日常でも役立ちます。首筋も日焼けしやすいので、タレ付きの帽子や手ぬぐいを首にまくなど首筋の対策もお忘れなく。

 また、岩場でのケガ防止や、有毒物質から指先を守るために、手袋の着用も検討しましょう。学校の遠足では軍手が指定されていたりしましたね。軍手でもいいのですが、夏だと暑く感じる場合も多いです。登山用のものだと、薄くても機能的です。

帽子は、熱中症対策になることはもちろん、頭の保護にも有効なアイテム。

足元は丈夫で防水性の高いアウトドア用シューズが安心

 靴選びの基本は、普段から履き慣れたものを使うこと。靴擦れや足の痛みなどが生じると楽しめなくなるので、履き慣れておくことが大切です。さらには、ぬかるみや雨など、濡れても大丈夫なレインウエアと同じ素材の靴や歩きやすさにこだわったトレッキングシューズなどがお勧めです。防水性などの機能を持つアウトドア用のシューズであるといいでしょう。

アウトドア・フィールドは不整地。普段から履き慣れたシューズ、アウトドア(トレッキング)用のシューズが理想。

飲み物と食べ物は必ず携行し、こまめに補給

 夏の行動中は、喉が早く乾きます。アウトドア・フィールドでの給水の計算方法はいくつかあり、一例として体重60kgの人が、6時間登山をした場合は、1,200〜1,500mℓの水が必要とされています。500mℓのペットボトル1本では足りなくなることをイメージしておいてください。喉が渇くと感じるより前に給水するのが効果的です。また、運動中は電解質も喪失されるので、スポーツドリンクやパウダー状の電解質の補給が必要です。

 行動中は、糖分の不足を防ぐためにも食べ物が必要です。登りは糖分と脂質、下りは糖分を必要とするので、ハイキング中は、登りも下りも糖分切れとならないよう、疲れを感じる前に口にしてください。ジェル状のものやサプリメントなど、携行しやすく補給もしやすいものが多数ありますので、ぜひ活用してみてください。

軽くてかさばらない、携行に便利なジェル状の高エネルギー補給食がたくさん市販されているので、こうしたものを利用するのも手。

日が暮れると野山は真っ暗。デイハイキング(日帰り)でもライトは必携

 日帰りなら必要ないかもと思われがちですが、タイミングを逸して帰りが遅くなるという事態は結構ありがちです。そのとき、明かりがないと都会の停電よりずっと深い漆黒の闇に包まれます。スマホでも明かりになりますが、電池切れが心配です。両手の空けられるヘッドライトがお勧めです。アウトドアではもちろんですが、防犯や災害対策にも役立ちます。

日帰りのハイキングでも、ヘッドライトなどのライト類を必ず携行しよう。(写真 Ando Makoto)

アウトドア用リュックサックで両手をフリーに

 アウトドアのリュックは揺れないことと重心が上に上がること、面で支えることの3点で荷物を軽くする工夫があります。揺れると慣性の法則で荷物が、その場に留まろうとして、それだけで重くなるのです。だから、アウトドアのリュックはウエストやチェスト(胸部)にバックルがついていて、体にフィットして揺れないようになっています。また、重心が下により上にあるほうが安定するので、高い位置で背負えるように工夫されています。肩ベルトを緩めて使うのではなく、腰ベルトをまず締めて、位置を整えてから肩ベルトを調整してみてください。体に合ったリュックを選び、きちんと定位置で背負うことで、重い荷物も軽く感じられるようになります。リュックサックを背負えば、両手はフリーになるので安全です。

しっかり背負えば、リュックは安定。木登りしても揺れにくい。(写真 Ando Makoto)

万一に備えて、救急セットも

 切り傷や擦り傷といった擦過傷、さらには靴擦れなど、元気な子どもにとってそれは勲章のようなものかもしれません。とはいえ、実際に傷を負ってしまった場合は適切な処置をしましょう。例えば、靴擦れなどにはハイドロコロイドの絆創膏(湿潤療法を取り入れた絆創膏で、体が本来持っている自己治癒力を最大限に生かした治療法を採用したもの)をつけると痛みを感じにくくなります。ケガの際にもハイドロコロイドは活躍します。使う場合は、消毒はしません(傷ついた組織にダメージを与え、治りがかえって遅くなることがあるため)。感染症を防ぐため傷口を水で洗い流します。直に口をつけていないペットボトルの水を使って、洗い流しましょう。ケガ対策の基本は、流水で洗い流すことと、圧迫止血ができることです。これはアウトドアで特別必要となるスキルではなく、日常で役立つスキルですので、普段から使いやすいファーストエイドキッド(救急セット)を自分なりに考えておくことが大切です。

 また、夏のアウトドア・フィールドにはハチなどの有毒生物がいることがあります。ハチの場合、黒い服装は避け、香りをつけないようにしてください。昔は香水をつけて野山に入るとハチに襲われるといわれていましたが、今は、香りが持続する柔軟剤もあります。ハチはどんな香りでも襲ってくる可能性があるので、野山に入るときは無臭を心がけます。アロマの虫除けは蚊などの対策で、ハチには効きません。虫ごとに対策が違うので事前に調べておきましょう。マルチツールのとげ抜きがあると、毒針を抜くのにも使えます(虫対策はまた改めて紹介する予定です)。

 アウトドア・フィールドに入るとき、最も大切で重要な持ち物、それは命を守る道具。ただ、同時にワクワクする心を忘れずに持っていけば、山や森、アウトドアフィールドがより楽しくなりますよね。必要な持ち物と適切な服装を身につけて、寄り道できるくらいゆっくり時間に余裕を持って、じんわり山や森を踏みしめて楽しんでください。楽しい山遊び、森遊びになりますように。

爽快な青空が広がり、緑豊かな山や森、鏡のように美しい水をたたえる湖……。こんな心地よい自然の中へ、みんなでぜひ出かけよう!

[文 ACORN編集部]

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