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祝! 新元号「令和」。新たな時代を迎えるこの機に、天皇家と森の歴史を尋ねる

 新たな元号が発表され、「平成」から「令和」の世に変わろうとしている今。新天皇が即位されることから、皇室が改めて注目されています。そこで本サイトでは、天皇家と日本の自然保護との関わりという分野を尋ねてみたいと思います。

天皇皇后両陛下ご来臨の恒例行事「全国植樹祭」

 毎年春に行なわれる「全国植樹祭」は、天皇皇后両陛下が全国各地の開催県を訪問されるのが慣例となっている行事。森林に対する愛情を育むとともに、環境保全に寄与することがねらいです。

 もともと1895年の天皇誕生日に始まった「愛林日」という全国規模の緑化運動がその始まりでした。その後、神武天皇祭を行なっていた4月3日を中心に植樹行事を行なうようになり、戦争中は一時中断したものの、終戦後の1947年、皇太子殿下(当時=のちの平成天皇)を迎えて再開しました。

 今春、2019年度は第70回目となり、「愛知県森林公園(愛知県尾張旭市)」で開催。5月より天皇に即位される徳仁親王と雅子妃がご臨席され、「おことば」「お手植え・お手まき」行事が予定されています。

自然を愛した昭和天皇と緑豊かな皇居

 ゴールデンウィークの祝日のひとつには「みどりの日」があります。じつはこの日も、天皇家とつながりがあります。現在「みどりの日」は5月4日に定められていますが、2006年までは4月29日とされていました。昭和天皇在位中は「天皇誕生日」だった4月29日ですが、平成天皇が即位されてからは12月23日が「天皇誕生日」となったため、植物に造詣の深かった昭和天皇にちなみ4月29日を「みどりの日」として国民の祝日にしたのです。のちに法改正が行なわれ、2007年以降「みどりの日」は5月4日に移動しました。

 「みどりの日」の名前の由来にもなった昭和天皇は、ご幼少の頃から那須や伊豆半島の御用邸、赤坂離宮などで自然に親しまれ、皇居の庭に生える小さな草にも深い慈しみの目を向けておられました。生物学者という一面もお持ちで、植物や海洋生物の研究にも力を注いでおられたということです。

 自然を愛していたからこそ、昭和天皇は皇居の自然保護にも大きな影響を与えました。皇居の自然は、都市化が進んだ東京都心部で、野生生物のサンクチュアリとして、またヒートアイランド現象が温暖化に追い打ちをかけるようなビル群の中の貴重なクールスポットとして、重要な役割を持っています。

 そんな皇居(旧江戸城)は、古くは室町時代に武将・太田道灌(おおたどうかん)が城を築き、その後、徳川家康が入城して徳川家の本拠とした地。北側を荒川・入間川水系、南側を多摩川水系が流れる、武蔵野台地の先端部にあたります。家康が入城するまでは、海にほど近いクロマツ林が広がっていたとされ、江戸時代には大名屋敷や庭園であったそうです。

 明治維新の後、皇居となってからは、ゴルフ場が作られたりもしましたが、終戦後、昭和天皇の強いご意向によって「自然状態の武蔵野に生育する植物」を移植し、森の再生が行なわれました。その森が残るエリアが、皇居の一部である「吹上御苑」です。

貴重な自然が残る「吹上御苑」と
都市部のオアシス「新宿御苑」「京都御苑」

 東京が都市化する前の“武蔵野の自然”の面影を伝える「吹上御苑」の森は、庭園としての管理を行なうのではなく、より自然に近い状態を維持してきた結果、豊かな生物相が蘇った森です。

 1996年から2000年にかけて行なわれた第一次調査では、植物1,366種と動物3,638種の計5,004種が確認され、2009年から2013年にかけての第二次調査では、さらに植物250種と動物649種の計899種が追加されました。2度の調査を合わせて5,903種類の生物がいることがわかり、そのなかには、新種や絶滅危惧種も確認されています。

 新種と確認されたもののひとつが「フキアゲニリンソウ」。草丈が長く、通常のニリンソウの約2倍もの大輪の白い花(直径約4cm)を咲かせます。散策の際にこの花を目にされていた天皇皇后両陛下は、新種であるとの報告にとても驚かれたとか。

 ほかにも、絶滅危惧種に指定されている生物が見つかったり、大気汚染に弱い地衣類の増加が確認されたりするなど、都心部の大気汚染レベルが改善していることを裏付けるデータにもなっています。

水辺環境のある吹上御苑ではホタルも見られます。(写真 『山歩記』(https://northsnow20.blog.fc2.com)より)

 「吹上御苑」と並んで、「新宿御苑」も都心の自然豊かな緑地として知られています。江戸時代には信州高遠藩主、内藤氏の屋敷があった場所で、1906年、日本初の皇室庭園として整備されました。

 面積58.3ヘクタール、周囲3.5kmの園内には、約1万本もの樹木が植えられ、風景式庭園、整形式庭園、日本庭園など、さまざまな意匠で美しく整備されています。終戦後に国民公園となり、四季折々の花や緑が楽しめる都会のオアシスとして親しまれています。

「新宿御苑」では、春(5月頃)にはフジ、ツツジ、バラなど色とりどりの花々が園内を彩ります。なお苑内は酒類の持込は禁止。また遊具類の使用もできません(こども広場を除く)。(写真 環境省新宿御苑管理事務所)

 京都には「京都御苑」がありますが、こちらも緑豊かな癒しのスポットとなっています。中心となっているのは京都御所で、14世紀頃から明治2年まで歴代天皇がお住まいになり、公務を行なった「内裏」の様式がそのまま残されています。

 周囲の緑地には、500種を超える植物が生育しており、野鳥は100種以上確認されるなど、豊かな自然を楽しむことができます。

季節の花はもちろん、秋には紅葉も楽しめる「京都御苑」。(写真 環境省京都御苑管理事務所)

元・天皇家のお庭「恩賜公園」「恩賜庭園」

 また、各地で市民の憩いの場となっている「恩賜公園」や「恩賜庭園」も、元は皇室の施設でした。戦前まで宮内省が御料地として所有していましたが、戦後、国民が利用できる公共施設として整備されたものです。無料で利用できる「恩賜公園」と、入園料が必要な「恩賜庭園」があります。

 とりわけ有名なのは、「上野恩賜公園」と「井の頭恩賜公園」でしょう。「上野恩賜公園」は「上野の森」「上野の山」とも呼ばれる総面積約53万平㎡の広大な緑地です。東京国立博物館、国立西洋美術館、国立科学博物館、恩賜上野動物園などの施設があり、花見の名所として、近年は海外からも多くの人が訪れます。

 「井の頭恩賜公園」は東京都武蔵野市と三鷹市にまたがる都市公園で、武蔵野三大湧水池として知られる井之頭池を中心とした緑豊かな公園です。江戸時代から、江戸の街を潤してきた神田上水の水源として大切にされてきました。

新緑に彩られた「井の頭公園の池」。憩いの場として親しまれています。

 ほかにも、都内には「猿江恩賜公園」「浜離宮恩賜庭園(有料)」「旧芝離宮恩賜庭園(有料)」などがあり、山梨県の富士山北麓には「恩賜林組合」と呼ばれる公園が、兵庫県には皇室の元離宮が神戸市に下賜されて作られた「須磨離宮公園」があります。  最後にもうひとつ。公園ではありませんが、皇室のお墓である「御陵」にも、豊かな森が広がっています。

 東京都八王子市にある「武蔵陵墓地」は、八王子八十八景にも選ばれている美しい場所。静かな森の中に、大正天皇・貞明皇后、昭和天皇・香淳皇后の四陵があります。

 明治天皇は京都市伏見区の「伏見桃山陵」に、第108代後水尾天皇から第121代孝明天皇までの歴代天皇は京都市東山区今熊野に御陵があり、いずれも深い樹林に覆われた緑地となっています。

 ちなみに、天皇陵のなかで最も大きいものは、大阪府堺市にある「仁徳天皇陵」。巨大な前方後円墳の写真を教科書などで目にしたことのある人も多いかもしれません。墳丘の長さは486m、周囲の三重の濠を含む全長は840mで、墳墓としては世界最大級のものです。2019年の世界文化遺産登録を目指す「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」のひとつでもあります。これらはいずれも緑に覆われた生物たちのサンクチュアリで、お濠には水鳥や水生生物も生息しています。

上空から見た仁徳天皇陵。都市部にぽっかり浮かんだ緑の島のようです。

 新緑がまぶしくなってくるこの季節。「平成」から「令和」へと元号が変わるこの機に、天皇家にゆかりある森に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

[文 ACORN編集部/トップ写真 環境省京都御苑管理事務所]

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