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森の基礎知識シリーズ 「原生林」と「自然林」って、どんな森? どう違うの?

 日本は国土の約67%が森林。これは、森林率(=国土面積に占める森林の比率)が高いことで知られるフィンランド、スウェーデンに次いで、世界3位です。ひと口に「森林」といってもいろいろなタイプがありますが、今回は森林の分類について見ていきましょう。

原生林、自然林、人工林。それぞれの定義とは?

 森林は成立の仕方によって分類すると「原生林」「天然林」「人工林」の3種に区分できます。

 このうち「人工林」は読んで字のごとく、人が植えて育てる森林のこと。木材生産が主な目的です。

 違いがわかりにくいのが「原生林」と「天然林」です。「天然林」とは、伐採など人の手が加わっても、自然の力で維持されている森林を指します。それに対し「原生林」とは、過去に伐採されたことがなく、人為の影響のない森林のこと。

 日本では古くから、人々が暮らすエリアに近いところに、薪や炭焼き用の木、山菜、肥料用の落葉などを採取してきた“里山”と呼ばれる森がありました。里山の奥には、神秘的な領域として、基本的に人が立ち入ることのない“奥山”と呼ばれる山林がありましたが、里山が「自然林」、奥山が「原生林」にあたります。

 原生林として知られているのは、アマゾンの熱帯雨林を始め、アラスカ、ロシア、ベラルーシ、カナダの森など。日本では、知床半島や白神山地などがありますが、いずれも、森林の中で占める割合はごくわずかなものになっています。

青森県の南西部から秋田県の北西部にかけて広がる白神山地は、世界最大級の規模で分布する原生的なブナ林としてユネスコの世界自然遺産に登録されています。

森林はどうやって形成されるの?

 木がたくさん生えている場所を「森林」と呼びますが、人が植樹して作られた「人工林」はさておき、自然の中で森林はどうやって成立するのでしょうか。

 例えば、土砂崩れの発生や火山の噴火などによって、植物が何も生えていない状態(=裸地)になったあと、どう変化していくかを見ていきましょう。

 裸地では、いきなり樹木が育つことはありません。土壌中に植物が成長するために必要な養分や保水力がないからです。裸地にまず生えるのは、コケ植物や地衣類。成長に必要な水分を空気中から取り込み、太陽光があれば光合成で成長できるからです。

 これらが世代交代を繰り返し、その遺骸が堆積することで、保水力があって養分を含んだ土壌が徐々に形成されていきます。薄い土壌が作られると、一年生の植物(草本)が生えるようになり、草原になります。続いて生えてくるのが多年生草本。ススキやチガヤのように、冬に地上部が枯れても地下茎や球根が生きていて翌年にまた繁る植物たちです。これらの根が岩石の風化を促し、次第に植物が育つのに適した土壌が作られていきます。

 ある程度の厚さの土壌が作られると、強い日差しを好む「陽樹」と呼ばれる樹木が生え始めます。最初に大地に根を下ろす「パイオニアツリー(先駆樹種)」と呼ばれる樹木たちです。ウツギやタラノキ、ヤシャブシやヤマツツジなどといった低木類がまず生え、「低木林」を形成します。続いてアカマツやコナラなどの「高木林」が形成されていきます。

 陽樹が育ってくると、葉が茂って林床にあまり日が差さなくなり、日差しが強すぎると育たない樹種が生えてきます。スダジイ、アラカシなどの「陰樹」と呼ばれる木々で、しばらくは陽樹と陰樹が混じった森になりますが、やがて陽樹はその場所では新たに育たないため陰樹の高木がほとんどの森になり、土壌かく乱などの特別なことが起きない限り、樹種が変化しない「極相林」となります。

 安定した極相林を形成する樹種は、地域や気候によって異なっており、亜寒帯である北海道ではエゾマツ、冷温帯に属する本州の日本海側などではブナ、暖温帯に属する本州の太平洋沿岸ではタブノキなどです。

 裸地から草原化し、森林が形成されるまでに要する時間は環境によってさまざまです。日本のように適度に雨が降る植物の生育に適した気候でも、極相林になるまでには200年以上かかるといわれています。

ブナの茂る森では、ブナのほかにミズナラやササなどが生育することが多くあります。

日本の森林の現状は?

 林野庁によると(平成29年9月現在)、国土面積の約2/3を占める森林の面積は約25,000万ha。そのうち、1,000万haが人工林です。

 森林面積は、近年横ばいでほとんど変化していませんが、森林蓄積(=木が生長した量を体積で表したもの)は増加しています。人工林を中心に、毎年およそ8千万立方mずつ増えているそうです。

 戦後に植林した人工林の半数以上が収穫期を迎えていますが、伐採されて材木などに利用されているのは、一部に留まり、成長量のうち6割強は利用されずに放置されているのです。

 昭和30年頃まで100%に近かった木材の国内自給率は、高度経済成長期に輸入木材に押されて激減し、平成14年には18.8%まで低下しました。

 その後、国産材が見直されるなど、自給率は徐々に回復に向かっていますが、林業従事者の高齢化や利益が出にくい産業構造であることなど、多くの問題点が指摘されています。

日本国内の木材自給率は、平成14年の18.8%を底に少しずつ上昇傾向で推移しています。

いま、世界の森林で起きていること

 赤道に沿って広がる熱帯雨林は、世界の森林の約40%を占めています。なかでも、南米のアマゾン川流域には世界最大の熱帯雨林がありますが、焼き畑農業や畜産業の進出、伐採などで、過去50年に1/5が失われ、現在も減少しつつあります。

 ヨーロッパでは、酸性雨の影響で、湖の魚が死滅したり、ドイツ南部の「シュヴァルツヴァルト(黒い森)」が枯れています。また、パームオイルを作るため、東南アジアの各地で大規模な森林伐採が行なわれています。人為によるもの以外にも、近年、異常高温や干ばつ、落雷などによる森林火災が各地で多発しています。

 世界的に見ると、2000年から2010年までの10年間の平均で、毎年520万haの森が失われました。とくに減少が大きいのはブラジル、オーストラリア、インドネシア、ナイジェリアなどです。

伐採されたタスマニアの森林。日本人の私たちが普段使っているコピー用紙なども、多くは輸入木材から作られています。(写真 JATAN〔熱帯林行動ネットワーク〕(http://www.jatan.org)より)

 一方、中国では大規模な植林が始まり、ヨーロッパでも森林再生への取り組みが進んでいます。国際的に森林の大切さが認識され、「持続可能な森林経営」への取り組みが始まっているのです。

 空気の浄化、水質維持など、人間や多くの生物にとって非常に重要な役割を果たしている森林。なかでも、生物多様性や気候の安定などに大きな影響を持つ原生林が、これ以上失われないよう守っていきたい。ACORNもそう考えています。

[文 ACORN編集部]

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