Column
森のくまさん
ある日、森の中クマさんに出会った!
みなさん、どうしますか?
逃げる? 戦う? 死んだふり? 魔法をつかう?
人を襲って、時には命も奪うような凶暴な生き物は、この狭い日本にいなくてもいいんじゃないの。と思う人もいるかもしれません。実際、クマはどんな生き物なのでしょう。
日本には、北海道に棲んでいるヒグマと本州と四国(九州は絶滅)に棲んでいるツキノワグマがいます。2種類のクマの違いで分かりやすいのは、体の大きさと色です。
おとなのクマの大きさ 頭胴長(頭からしっぽまでの長さ)
ツキノワグマ 110cm~150cm 体重50kg~100kg
ヒグマ 180cm~230cm 体重150kg~250kg
どちらも個体差は大きく、ツキノワグマで200kg超え、ヒグマで400kg超えの記録もあります。
体の色、ツキノワグマは真っ黒です。多くは胸に三日月のように白い毛がありますが、白い毛がないものも1割ほどいます。ヒグマは茶褐色を中心に黒っぽいものから白っぽいものまでいます。
2種類とも基本的には同じような生活スタイルですが、北海道と本州では自然環境や集落の作りの違いもあり、今回はツキノワグマのお話です。
今年は、クマと人との事故のニュースをよく聞くような気がします。登山や山菜取りで山に入った人ではなく、家の近くを散歩している人やキャンプ場内など、人の活動エリアでの事故は特に気になります。
山奥に棲んでいるクマが人里に出没するのは、山奥が開発されて棲む場所が無くなったり、放置されて森が荒れたり、山のドングリが不作でお腹がすいて食べ物を探して里に降りてくるなど、そうかもしれないと思える理由を聞きますね。
僕は(著者)、生き物調査で全国の山の中に出かけることが多いのですが、年に何度かは実際にクマを見かけるし、足跡、爪痕、糞などクマのいるフィールドサイン(痕跡)はよく見ます。
春、雪の残る斜面を登る親子やブナに登って新芽を食べてる姿
夏、石をひっくり返したり、枯れ木を壊したりして、アリなどの昆虫を探した跡
秋、ドングリを食べるために木に登り、枝を折ってお尻に敷いてできたクマ棚
冬、は冬眠ですね
フィールドサインは、意外に人家のすぐ近くにもありますが、その地域の人でもクマを見たことはないし、近くにいるとは思っていない人が多いようです。
最近になってクマが目撃されたという京都府の丹波地方へ行ってみると、庭のカキの木に鋭い爪痕がありました。よく見ると、新しい爪跡のほかにも、古い爪痕がいくつもあり、実際は毎年のように庭に来ていたことがわかりました。この集落で生まれてずっと住んでいる80歳のおばあちゃんでも、いままで見たことはなかったそうです。
大きな体と鋭い爪や牙をもつクマですが、性格は穏やかで、なるべく人に会わないようにひっそりと生活しているのです。
クマのいる山に入るときに、鈴などで音を出すことは事故に遭わないために有効です。東北地方の山奥で山菜を採っているおばあちゃんのリュックには、カボチャくらいの金色の鈴が2つ、紅白のひもで結わえてありました。どうみても神社にあるガラガラッとなる鈴です。バチが当たるのではと思いましたが、おばあちゃんは元気そうなので逆にご利益があるのかもしれません。
音を鳴らすのは鈴の音をクマが嫌がって逃げていくからではなく、音がする所には人がいるよと分からせるためです。鈴じゃなくて、手拍子や歌でも効果はあります。ずっと歌っているのは大変ですが…
クマは夜行性と思われがちですが、森に棲んでいるクマは基本的には昼行性で朝夕の薄暗い時間帯には活発に行動しています。
でも人里の近くに棲み、畑の作物やゴミ箱などを餌場として覚えてしまったクマは、人に見つからないように夜に行動するようになってしまったものもいます。
マタギの郷として有名な秋田県北部の山の中で、まだ雪の残る春先の斜面に1頭のクマが草を食べているのを見つけました。のんびり草を食べては、時々木に登って昼寝をしたり、草の中でゴロゴロしたり、とてもリラックスしているようです。 しばらく見ていると、近くの林道に軽トラが止まりました。オレンジ色のベストを着ています。地元の猟師さんです。僕は、猟師さんの存在も自然との関わりの中では重要だと思っています。
でも、今まで見ていたのんびり幸せそうなクマが撃たれるのは、複雑な心境でした。出来れば、見つからないでほしい。
その後、無線で仲間の猟師さんたちが集まり始めたので、僕はその場を離れました。
すると、離れた別の斜面にもう1頭クマがいるのを見つけました。その時、パンパンっと鋭い乾いた音が響きました。もう1頭のクマはしばらく音のしたほうを見つめていましたが、そっと草の茂みに見えなくなりました。
日本にクマが何頭ぐらい生息しているかは、正確な数はよくわかっていません。
全国の個体数が1万数千とのデータもあります。クマと人との事故で年間50~150人の方が被害にあい、有害な動物として年間1000~5000頭のクマが駆除されています。
数字だけをみると、なんだかいろいろと考えてしまいますが、日本の森にはクマもいてほしいと願っています。
人もクマも、みんなが一度に幸せになれる、そんな魔法はまだ使えないので、なるべく共存できる方法を探しならが、鈴を鳴らし手拍子と鼻歌でも歌いながら、森の中を歩いて行こうと思います。
文・写真/川崎 きみお 編集/ACORN編集部 一部写真/istock
ライター紹介:川崎きみお
茨城県の海辺の街で生まれ育ち、現在は長野県安曇野在住。 全国の野山へ出かけ、野鳥や哺乳類の環境調査を行うかたわら、 C.W.ニコル・アファンの森財団では、生き物調査のほか、子供たちメインに森の楽しさを伝える活動をてしている。 地元の安曇野でも、いくつかの森の幼稚園で小さな子供たちと森遊びを実施している。