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ビオトープってなに? ~ビオトープに対する疑問、勘違いに答えます!~

 環境教育などでビオトープという言葉は良く耳にしますが、その意味をご存知でしたか? 永年ビオトープに関わられてきたBiotopguild代表の三森さんにビオトープについての記事をお願いしました。


 20年ほど前から急に世の中に出回った“ビオトープ”という言葉。
 田んぼビオトープ、学校・園庭ビオトープ、ホタルビオトープ、睡蓮鉢ビオトープ…現在までに様々なビオトープがついた言葉が出てきましたが、このうちのいくつかはビオトープという言葉とその意味からは大きく外れているんです。

 まずはビオトープの語源から説明すると、“Bios(ビオス)”という生物や生命を指す古代ギリシャ語と“Topos(トポス)”という場所を指すギリシャ語を組み合わせてドイツで作られた造語です。その意味をビオトープ発祥の地であるドイツの連邦自然保護局では、

  ○ 有機的に結びついた特定の生物群集・生物相(ある地域に生息・生育する生物の全て)の生息空間

  ○ 周辺地域から明確に区分できる性質を持った生息環境の地理的最小単位であり、明確に範囲を特定できない、しにくい生態系と区別される

 とされています。「いやいや!難しいから!!」って思いますよね(汗)簡単に言い換えると

  ○ とある地域に暮らす全ての固有な生物にとって命を繋ぐ条件の揃った場所

  ○ いくつかのビオトープが組み合わさって生態系が形成される

 

 とでも言いましょうか。もう少し噛み砕いて説明すると、

 a. 場所、地域を特定する、範囲については環境の特性(森林、湖沼、河川、草地等)によって分類したり、ある程度関わる人間の任意で保全地域として設定することもある

 b.  生物を特定しない、生物それぞれの関係性も含めて考慮に入れる

 c. それぞれの地域の固有性を大切にする

 d. 地域ごとの気候や地形、地質など、生物以外の自然環境も考慮に入れる

 これがビオトープという用語を用いて自然や生物に関わる際の大切な考え方になります。

 また、ビオトープに関する認識の誤りとして多いのが「破壊された自然の代わりに新たに作る自然」というものですが、上記の条件に当てはめれば当然そんなことはなく、現在残されている自然もビオトープとして捉えることができますし、その保全こそがまず大切にしないといけないことです。

 これらを踏まえて前述したビオトープという用語の使用方法のいくつかにQ&A形式で答え合わせしてみると…

Q.1 ホタルビオトープって正しいの?
A.1 ビオトープの考え方では特定の生物“のみ”を保護する、増やすということはしませんので、生物の名前を冠したビオトープというのはあまり適切ではありません。
 ある場所で、ゲンジボタルならゲンジボタル、ヘイケボタルならヘイケボタルというようにホタルの種ごとに必要な環境条件を保全したり整備したりすることが重要です。そのためには食物となる動物や産卵に利用する植物をはじめ、その他の様々な生物も保全できるような配慮も必要です。

Q.2 田んぼは人が人のために作った場所だからビオトープじゃないの?
A.2 ビオトープの考え方に“人が関わっていない”ことは含まれません。
  田んぼを自ら選び、利用して生きている生物たちにとって農地も立派なビオトープとなり得ます。
 しかし、稲だけのために殺虫剤や殺菌剤、除草剤を過度に使用して、稲だけしか育たないような田んぼをビオトープと呼べるの?とか、合鴨や鯉など人工的に作り出した品種や外来種を用いた農法の田んぼはビオトープなの?となると、“その地域に暮らす生物群集にとって生きていく条件が揃っている場所”であり“その地域に固有な”という考え方を含むビオトープからは外れるのかなと思います。

 学校や園庭のビオトープ、睡蓮鉢ビオトープはビオトープの定義に沿えばビオトープと呼べると思いますが、地域固有性について気に留めておくこと、特定の生物だけの空間にしないことが大切です。

 それらに注意しながら、それぞれのビオトープで気づきや学び、楽しみなどを得てポジティブに永く関わり続けられる人がいるということも大切です。


 そして最後に述べたいのが、「多様な生きものがそれぞれ関わり合って命を繋いでいくために、行動範囲が広い生きものや生きていくために、複数の異なる環境を移動する生きものために、たくさんのビオトープが必要である」ということです。あくまでもひとつひとつのビオトープで守れる命、できることは限られていますので、より広い視野で自然や生きものたちのすみかを捉え、多様な生きものと共に暮らす豊かな未来を描いていきたいと私は考えています。

 

文・写真/三森典彰  編集/ACORN編集部

三森典彰/BiotopGuild

“ビオトープ”という概念を用いながら、主に都市部の自然環境にまつわる仕事に従事。自然に興味がない人にも日常の中で楽しみながら自然や生きものに目を向けてもらえる仕掛けづくりをモットーとしている。自然に対する知識や理解の普及、業種や立場を超えた 交流・接点をつくる場づくりなどおこなうBiotopGuildを設立し代表をつとめる。

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