Column

復興の森といきものたち

2012年からACORN活動としてオカムラも参加した、C.W.ニコル・アファンの森財団が宮城県東松島市で実施された復興の森プロジェクト。まもなくあれから10年その復興の森づくりを当初の様子から今に至るまでを、森づくりに関わった川崎きみおさんに、復興の森についてコラムをお願いしました。

TOP写真は2012年夏に復興の森の調査を始める様子。


宮城県東松島市野蒜ヶ丘、この街に”復興の森”と呼ばれている森があります。2011年3月11日、東日本大震災で東松島市野蒜は甚大な津波被害を受けました。その後、高台に移転することが決まり、隣接する山林を造成することになりました。住宅地だけではなく、JR仙石線の駅や小学校など、街がまるごと移転する計画です。

その場所は、長い間利用されず、地元の人も入れなかった民有地で、放置されて笹が密生した雑木林でした。そこは、幽霊森と呼ばれた、かつてのアファンの森のように荒れていて、人にも生き物たちにも利用しにくい状態でした。

新しく作る学校は地域の自然を活かし、子供たちのため、そしてより良い未来のため、森と共にある学校にしたい。そのために、ぜひニコルさんに手伝ってほしいと、東松島市からの熱い声がかかりました。

僕は、以前からアファンの森で鳥や動物の調査をしていたので、どんなところか見てきてほしいとニコルさんから声をかけてもらい、2011年の夏ごろから東松島市にたびたび訪れるようになりました。

はじめてその森に行ったときは、さて、どこから入ればいいんだ… と、密生した笹のヤブにたじろぎ、「分け入っても分け入っても暗いヤブ」で俳人に、いや廃人になりそうでした。

でも、がんばってあちこち歩いてみると、大きなモミの木がどーんと現れたり、立派なコナラの森があったり、笹の少ないところにはコロコロしたノウサギのフンや、山盛りのタヌキのためフンもあり、豊かな里山の環境の芽が、あちこちにあるのがわかりました。

夜の森に行ってみると、キツネの親子がかけっこをしていて、森の奥でフクロウも鳴いていました。森のある山から海側を見ると、まだ震災の跡が色濃く残り、明かりもなく真っ暗で、そして星がきれいに瞬いていました。

2013年、大規模な造成工事が始まり、木が伐られ、山は削られて、地面がむき出しになってきました。

ある日の朝早く、僕は鳥の調査をしていました。フジの花の咲く季節でした。どこからか視線を感じて周りを探すと、1頭のキツネが僕のほうを見ていました。実際は僕を見ていたのではなく、危険がないか周囲のにおいを嗅いでいたのでしょう。しばらくすると、削られた斜面をとことこ降りてきて、くるくる回ったあとに体を丸めて、襟巻のような姿で寝てしまいました。今日の工事が始まる時間までは、しばらく休めそうだね。

学校が完成するまでは、まだ数年かかるので、まずは学校に隣接する森の手入れから始めようと、ニコルさんとアファンの森のスタッフ、地元の人たちや様々なボランティアの人たちが集まり、笹を刈り、木々の間伐を行いました。そして、少しずつ森の中は明るくなってきました。

地元の小学生たちと一緒に、小鳥用とフクロウ用の巣箱を作り、森に架け、そして、ツリーハウスや展望デッキが、人や馬の力で完成したのもこの頃です。

2015年、まだ葉っぱが芽吹いていない早春、大きなアカマツの上に枝が積まれた巣があるのを見つけました。双眼鏡でのぞいてみると、枝の隙間からオオタカが座っているのが見えました。今まで巣のあった木は、工事で伐採されてしまったのでしょうか。   この森に引っ越してきて新しく巣を作り、産卵したようです。その年の初夏には、2羽の幼鳥が無事に巣立っていきました。オオタカは、鳥や哺乳類を捕らえて生きる、豊かな里山に棲む代表的な猛禽類です。その後もいくつか巣を変えながらも、毎年のようにこの森で繁殖を続けています。

2017年の春、宮野森小学校が開校しました。今では、復興の森も子供たちの遊び場、学びの場として利用されています。

2019年、巣箱を架けてから6年目の春、フクロウがこの森の巣箱で繁殖し、1羽の幼鳥が巣立ちました。2020年も1羽の巣立ちが確認できました。

タカやフクロウなどの猛禽類が繁殖しているということは、それらの餌となる鳥や動物が多くいて、さらにそれらの餌となる動物や植物が豊富だということで、環境の豊かさを知る指標になります。復興の森が、多くの生き物にとって、以前より住みやすい環境になってきたのかもしれません。

自然は、今ある環境を、あるときはゆっくりと、あるときは一瞬で変えてしまう力を持っています。野生の生き物たちは、変わりゆく環境の中でも、全力でしなやかに、そして、したたかに命をつないで暮らしています。

2021年、東日本大震災から10年目になりますが、あの日からも多くの災害が続いています。
人間も、大自然の力にはおよびませんが、自分たちで環境を変えられる力を持っています。
その力をどのように使うのか、つぎの世代にどんなバトンを渡せるのか。
「多様性は可能性だよ!」と、ニコルさんの声が聞こえてきます。

川崎 きみお

おまけ(2019年川崎による自動撮影調査報告)

川崎きみお

茨城県の海辺の街で生まれ育ち、現在は長野県安曇野在住。 全国の野山へ出かけ、野鳥や哺乳類の環境調査を行うかたわら、 C.W.ニコル・アファンの森財団では、生き物調査のほか、子供たちメインに森の楽しさを伝える活動をてしている。 地元の安曇野でも、いくつかの森の幼稚園で小さな子供たちと森遊びを実施している。

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