Column

食べる・食べられるだけの関係ではない! 多種多様な方法で連鎖する「自然のネットワーク」の神秘

 食物連鎖の最下位で、昆虫や動物、さらには私たちヒトの命を支えているのが植物です。そんな植物とそれを食べる生物は、単なる捕食・被食の関係というわけではありません。植物は自ら身を守り、ときには食物連鎖の上位の生物を利用して、したたかに生きています。今回は、植物とさまざまな形でつながっている「自然界のネットワーク」という不思議な世界を垣間見てみましょう。

まずかったり食べにくかったり
進化のなかで得た植物の生き残り戦術

 植物は光合成をして栄養素を作り出し、花や種、実をつけます。そしてそれらを食べるのが草食動物や昆虫、さらにそれらを食べるのが肉食動物……というように、自然界はピラミッドのような形状の食物連鎖で成り立っています。

 その最下位にある植物にとって、「食べられること」は、ほぼすべての種が直面する生存と繁殖に大きく関わる問題です。そのため、虫や動物による食害や寄生から自らをどう守るか、ということが植物にとって重要な要素になってきます。

 植物の葉や茎などの特徴のひとつに、食べられることを防ぐ防衛手段と考えられるものがあります。わかりやすい例は、トゲや毛による物理的な防衛でしょう。ヒイラギモクセイなどは、地面近くに生えている食べられやすい葉はギザギザしており、高いところにある葉はギザギザがまったくないものがあります。また、体内で作られる化学物質による防衛、という特徴もわかりやすい例のひとつでしょう。身近なものとしては、渋柿が挙げられます。あの強烈な渋味はタンニンによるものです。その他、お茶の苦味や渋味の元になっている成分も、主にチャノキに含まれるタンニンです。渋味の強さとともに消化にわるいことから、草食動物はタンニンの多い植物を食べることを避けることが多いそうです。

タラの木もトゲのある木。新芽は天ぷらにすると美味しい反面、幹にはこんなトゲがある。『庭木図鑑 植木ペディア』(https://www.uekipedia.jp)より。

「天敵の天敵」をフェロモンで誘惑!?
他者を利用して身を守る植物も

 防衛手段は、味や消化のわるさだけではありません。逆に、虫が好む匂いを発する植物もあります。なぜそのようなことをするのでしょうか? これは、「敵の敵」を味方につけるためなのですね。マメ科のリママメ(ライマメ)は、葉をナミハダニというダニに食べられることがあります。しかし、リママメは食害を受けると、ナミハダニの天敵であるチリカブリダニを呼び寄せる匂い物質を出します。チリカブルダニは、好物であるナミハダニを食べて退治してくれるというわけです。

 ここでは、リママメとチリカブリダニの利害が一致し、協力関係にあるといえるでしょう。ちなみに、このような誘引物質は近年「天敵誘引剤」として農業用の害虫駆除剤に利用され、実用化の途上にあります。

 このような物質の他、有毒物質を用いた防衛方法もあります。例えば、人間もよく食中毒を起こしてしまう物質に、アルカロイドというものがあります。ジャガイモの発芽部分に含まれる有毒物質ソラニンなどが、アルカロイドの一種です。ソラニンは中毒すると、頭痛、嘔吐、下痢などを引き起こします。

 植物はこうした多種多様な方法で自らを守っています。ときには「天敵の天敵」まで利用するそのたくましさには驚かされますが、このような例は決して特別なことではありません。むしろ自然界では、さまざまな種が相互に影響を及ぼしながら、ときには戦い、ときには協力し合って生きています。

異なる生物同士が互いに影響を及ぼすことで
成り立っている「共生」関係

 リママメとチリカブリダニの例に限らず、異なる種の生物同士が一定の関係を持ち、互いに影響を及ぼし合いながら生活することを「共生」と呼びます。

 リママメと似たような例では、自分の体でアリが暮らせるように進化した「アリ植物」があります。アカシアの一種であるアリアカシアは、アリが巣を作れるように体の中に空洞があり、自らの樹液をアリに与えることで、アリの住みかとして適した環境を作り出しています。アリはボディガードの役割を担い、他の動物や昆虫からアリアカシア(=自分たちの巣)を守ります。

アリアカシア。赤いトゲの内部にアリが住む。『メキシコの文化と自然に魅せられて』(https://blogs.yahoo.co.jp/uekeimx)より。

 このようにお互いに利益のある状態を「相利共生(そうりきょうせい)」と呼びます。それに対し、片方には利益があるが、もう一方には利益も害もない共生を「片利共生(へんりきょうせい)」、片方のみが利益を得て、もう一方が害を被る場合には「寄生」と呼びます。

「片利共生」のわかりやすい例に、「着生植物(ちゃくせいしょくぶつ)」があります。これは土に根を張らず、他の樹木にくっつく、また巻きつくようにして生活する植物のことです。くっついている植物から栄養や水分を奪うことはないため、くっつかれている側に害はありません。それに対し、ヤドリギ、ラフレシア、ナンバンギセルといった植物は、他の植物の組織と結合し、栄養を吸い取ってしまう「寄生」植物です。

木に生えていることも多いコケ。その多くは着生植物。

ときには食べられることも必要?
防衛手段以上に重要な繁殖手段

 ここまでは、「食べられない」ための植物の工夫を見てきました。しかし、防衛することと同じくらい、「食べてもらう」ことが重要になる場面もあります。一見、矛盾しているようですが、じつは理にかなった戦略がそこに潜んでいます。一部の種では、繁殖のために花粉や種子を運んでもらう必要があるからです。

 植物が繁殖のために他の生物を利用することも、自然界にはよく見られます。最も有名なのは、ミツバチとさまざまな植物との関係でしょう。ミツバチは花の蜜を吸う行為を通して花粉を運び、他の花に受粉させます。これは「送粉」といい、ミツバチだけでなく、チョウやガ、また地域や環境によっては、コウモリも送粉を行ないます。洞窟などといった特殊な環境では、ハチやチョウといった送粉者が存在しません。そのため、こうした環境下にある植物は、花の蜜をコウモリに吸わせることで、送粉をしてもらっているというわけです。

花の蜜を回収したハチは後ろ足のつけ根に「花粉団子」ができる。ハチが他の花へ移動すると、花粉団子の花粉がめしべにくっつくという仕組み。

 受粉して果実を作った植物は、その後、種子を散らし、より広範囲に繁殖していくことを目指します。その際に利用する生物、つまり種子の運搬という作業を協力してくれる存在が、鳥になります。昆虫などに比べると遠くまで飛べる鳥に果実を食べてもらうことで、広範囲に渡って種子を散布してもうらわけですね。

 植物は、鳥に実を食べてもらうため、さまざまな工夫を凝らします。熟すと目立つように色づき、果実は鳥が好む味になります。さらに、胚は消化されずにフンとともに鳥の体外に出てくるよう、硬い殻で包まれています。こうした花粉や種子を運んでもらう行為も、昆虫や鳥などに利益があるため、「相利共生」のひとつといえるでしょう。

 多彩な方法・戦略によって、植物は自らを守り、繁殖していたのですね。自然界に存在する、そんな神秘的とも思える「ネットワーク」。森や山で植物や昆虫、鳥などを見かけたら、その関係性をちょっと想像してみると、自然の魅力をより深く感じられるかもしれません。次のお休みにフィールドへ出かけたら、そんな視点で自然を眺めてみるのも楽しいのではないでしょうか。

[文 ACORN編集部]

TOP