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冬ごもりする生きものたちの不思議-冬眠中はずっと寝ているの? お腹はすかないの?

 寒さが厳しい冬の時期を、土の中などにもぐって、じっとしたまま過ごすことを「冬ごもり」といいます。また冬ごもりのなかでも、寝て過ごすことを「冬眠」と呼びます。生きものたちはいったいなんのために冬ごもりをするのか、冬ごもりしている間に身体はどんな状態になっているのか。人間の暮らしからは想像のつかない、謎めいたその生態を探ってみましょう。

冬ごもりするのは体温を下げ、必要エネルギーを最小限にするため

 寒さが厳しいと、植物もあまり生育しなくなり、動物や昆虫などのエサとなるものが不足状態になります。また、水が凍ると飲み水さえ得られなくなるため、生物にとっては過酷な環境といえます。

 そこで、季節が進み、再び生存に適した環境になるまでの期間を、なんとかして生き延びるための戦略が「冬眠」や「越冬(えっとう)」です。寒さに適応するために、体温を低くして代謝を下げる「代謝抑制法」と呼ばれる方法をとります。これにより、生きるために必要なエネルギーが平常時よりも少なくなるのです。

 ちなみに、寒さ以外にも、夏の高温をやり過ごす「夏眠」、酸素が不足するなかで生き延びる「嫌気生活」など、環境によってさまざまな適応方法があります。

冬ごもりをするのは、どんな生きもの?

 ヘビやカエル、カメ、昆虫など、気温に合わせて体温が変わる変温動物の一部は土の中にもぐって寒い冬を過ごします。外気温の低下に伴って体温も下がってしまうため、温度変化の影響を受けにくい地中や水の底にもぐって、じっとしているのです。このような変温動物の冬ごもりは、「越冬」と呼ばれています。

 これらの生きものは、体温が0℃以下に下がっても生き延びることができる「凍結耐性」という特殊な能力を持っています。細胞中に氷ができると、細胞組織が破壊されてしまうので、グリセロールやソルビトール、グルコースなど、不凍液のような働きをする成分を体内で作り出します。これらの成分が含まれていると、細胞内の水分は凍結しません。そのため、氷の張った池の中や、凍てつく土の中でも生きていけるのです。

 一方、哺乳類など、気温とは関係なく一定の体温を保つ恒温動物の冬ごもりを「冬眠」と呼びます。現在、地球上に存在する哺乳類約5,000種のうち、冬眠する哺乳類は183種類。鳥類では、9,000種のうち1種類だけが冬眠することが確認されています。冬眠中は、起きているときに比べて体温は下がりますが、今のところ哺乳類で、体温が0℃以下になっても耐えられる個体は発見されていません。また魚類にも、水底に集まってじっと過ごしたり、水底の砂の中にもぐったりするなど、冬眠状態になるものがいます。

オオミノガの幼虫であるミノムシも自作の蓑の中で冬を越す。

 

変温動物と恒温動物の冬ごもりの違いとは

 両生類や爬虫類などの変温動物の場合は、体温が下がると、エネルギーもほとんど必要なくなります。同時に必要とする空気の量も非常に少なくなるため、硬い土の中に埋まっていても、窒息することはありません。

 哺乳類の場合も、ある程度体温を下げて過ごします。変温動物より多くのエネルギーが必要なので、冬が来る前にたくさんエサを食べ、体脂肪としてカロリーを蓄えます。そのうえで、比較的暖かい穴の中などでじっとしていることで代謝を下げ、消費カロリーを最小限に抑えています。

冬になる前に食べ物を蓄えるリス。

どれくらいの期間を冬眠で過ごすの? その間、ずっと寝ているの?

 クマやリスなどの場合、生息する地域や、その年の気象条件や環境などによっても変わりますが、およそ5~7カ月を冬眠して過ごすようです。特に長く眠る傾向にある哺乳類は、ヤマネ。中央ヨーロッパに生息しているオオヤマネの場合、11カ月も眠り続けた記録があるとか。

 ただ、冬眠する生きものたちが、みんなずっと眠っているかというとそうではありません。リスなどの小動物の場合は1~2週間に一度くらい、20時間以内の短い覚醒状態になるサイクルを繰り返しています。冬眠場所に食料を貯蔵しておく「貯食型」のシマリスなどは、ときおり目覚めて食事をし、排せつも行ないます。

 クマの場合は、途中で覚醒することはなく、ほとんど眠り続けます。夏から秋にかけて、冬眠に備えてたくさん食べて体脂肪をたっぷりと蓄える「脂肪蓄積型」なので、冬眠中は摂食も、排せつも一切せずに過ごせるのです。ところが、妊娠しているメスのクマは、冬眠中に出産し、授乳も行なうというから驚きです。

クマのメスは冬眠前にたっぷり脂肪を蓄えても、出産し授乳するため、ガリガリにやせ細ってしまうそう。

 かつては体温が10℃下がると、代謝機能が半減するというのが定説で、冬眠中の動物の体温はもっと低いと考えられていました。ところが、近年の調査研究で、ある種のクマはさほど体温を下げずに冬を越すことがわかりました。

 アラスカに生息するアメリカクロクマの場合、冬眠中の平均体温は約33℃。活動している時期と比べて、5~6℃低いだけです。しかし、活動期には1分間に55回程度の心拍数が、冬眠中は1分間に9回程度。体温をあまり下げることなく、代謝を大幅に低下させていたことが明らかになっています。

人間は冬眠できないの?

 冬眠のメカニズムを解明して、医療などに活かしたいという夢は古くからあり、さまざまな研究が行なわれていますが、今のところ、人工冬眠はまだ現実的ではないようです。

 ただ、次のような報告例はあります。2006年に神戸市の六甲山で遭難し、24日後に救助された男性の事例は、「冬眠」に近い状態であったとされています。山上でバーベキューを楽しんだ後、ケーブルカーで下山する仲間と別れて単独で下山しようとしていた男性が、ガケから落ちて骨盤を骨折。谷底で動けない状態になりました。遭難から24日後にようやく発見されたときには、体温は22℃まで低下し、多臓器不全と出血多量により、仮死状態でした。病院に運ばれたものの、到着と同時に心肺停止に。しかし心臓マッサージや体外循環装置で身体を温め、4時間後には心臓が再び動き始めました。その後、2カ月間の集中治療によって完全に回復し、退院することができたそうです。治療にあたった医師によると、極度の低体温で、「冬眠のような状態」であったことが生還につながった理由かもしれないということでした。

 医療現場では、心臓や呼吸を完全に止める必要がある複雑な手術で、短時間の人工的な仮死状態にすることがあります。現在の技術では1時間程度が限界とされていますが、「人工冬眠」が可能になれば、医療の分野で大きな進歩が期待できます。

 今回は、冬ごもりをする生きものたちの不思議な世界をのぞいてみました。最後はちょっと難しいお話になりましたが、動物や爬虫類、昆虫たちの冬の過ごし方を想像しながら雪山や冬の森を歩いてみてはいかがでしょうか。これまでとは違った自然観や多様な生き方をする生きものたちの世界観を感じられるかもしれません。

[文 ACORN編集部]

 

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