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森の木々や草花の蜜を集める“ミツバチ”と“ハチミツ”の秘密
1匹のミツバチが一生の間に集めるハチミツは、ティースプーンにわずか1杯分。そんな貴重なハチミツと、その生産者であるミツバチについて探ってみましょう。
ミツバチと植物の関係
最近注目を集めている「マヌカハニー」。健康食品として根強い人気の「プロポリス」。化粧品の口紅やクリームには、ミツロウが使われています。これらはすべてミツバチが作るもの。ミツバチが作るものにはいろいろありますが、今回は「ハチミツ」について少し掘り下げてみましょう。
約1億年前、美しい花を咲かせる「被子植物」が台頭してきました。美しい色や形、香り、甘い蜜を持つ「花」によってムシを呼び寄せ、受粉を手伝ってもらうことで、強い繁殖力を獲得します。
「被子植物」と対をなすものに「裸子植物」がありますが、こちらは風任せで受粉をするので、被子植物ほど繁殖力は強くありません。被子植物たちは、昆虫と共生関係を結びながら進化繁殖する「共進化」という道を辿るようになったのです。
花粉を運んで植物の受粉を助ける生きものを「ポリネーター」と呼びますが、その主役がミツバチ。花粉を運んでもらう報酬として花が用意しているのが「花蜜」、それをミツバチが巣にため込んだものが「ハチミツ」です。
ミツバチってどんな昆虫?
昆虫のなかでも、アリと同じ「ハチ目」に属し、花蜜を食料にしているのがミツバチです。セイヨウミツバチ、トウヨウミツバチなど世界で9種類が知られ、日本在来の二ホンミツバチはトウヨウミツバチの亜種です。
明治時代に西洋から移入したセイヨウミツバチは、ヨーロッパやアフリカ、中央アジア付近が原産地で、19世紀頃から「家畜」として改良されてきました。飼育しやすく、採蜜量も多いので、現在ではほとんどの養蜂家がセイヨウミツバチを飼っています。
ミツバチは、どんな木から蜜を集めてくる?
世界には約4,000種の蜜源・花粉源植物があるそうです。俗に、セイヨウミツバチは「サバンナのミツバチ」、トウヨウミツバチは「森のミツバチ」と呼ばれており、自然環境の中で生きている二ホンミツバチ(トウヨウミツバチの亜種)たちは、主に山地の森で採蜜を行なっています。
おもな蜜源樹木には、サクラやフジなどの花樹のほか、リンゴ、ナシ、ミカンやレモンなどの果樹も蜜源です。
ミツバチが花から集めてくるのは「花蜜」で、「ハチミツ」とは別ものです。巣に持ち帰った花蜜は、水分が約70%、糖度は40%程度。これをハチが“加工”することで「ハチミツ」が作られます。羽ばたきで風を送って水分を飛ばし、酵素の働きでショ糖がブドウ糖・果糖に分解される過程を経て、ビタミンやミネラルを豊富に含む美味しい「ハチミツ」になるのです。
医薬品として役立つハチミツ
「ハチミツ」は高濃度の糖分と酵素などを含んでおり、抗菌・抗炎症作用があります。古代エジプトでは、外科手術に用いられていたという記録があるそうです。日本でも民間療法として感染症や口内炎などの治療に用いられてきました。
厚生労働省の「日本薬局方」では、「ハチミツ」は医薬品(生薬)として登録されています。効能・用法として、「口唇の亀裂・あれ等に脱脂綿、ガーゼ等に浸し又は清潔な手指で患部に塗布する。その他滋養、甘味料として適量をそのまま又は適宜薄めて使用する」と記載されています。
ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素やポリフェノールも豊富に含まれることから、アンチエイジングや美肌など美容効果が高く、砂糖より低カロリーで甘さが強いので、ダイエットの味方でもあります。殺菌作用や傷の回復を早める力もあるので、ちょっとした傷ややけど、口内炎などの対処薬としても用いられています。一般によく知られている咳止めはもちろん、「ハチミツ」に含まれるオリゴ糖の作用で便秘解消にも効果が期待できます。
花によって異なる「ハチミツ」
どの花から蜜を集めたかによって、「ハチミツ」は味や色に違いがあります。人気ナンバー1はレンゲ蜜で、ほのかな花の香りと淡い色合い、まろやかな味わいが特徴。アカシア蜜はマイルドな甘さで食べやすく、冬に結晶しにくい点も人気です。
ところで、近年注目されているのが「マヌカハニー」。ニュージーランドに自生するフトモモ科の低木・マヌカの花から作られるもので、先住民族マオリ族は、その優れた薬効から「復活の木」という意味の「マヌカ」と名付けたそうです。ほかの「ハチミツ」にはない「メチルグリオキサール」という殺菌成分を含み、腸内環境の改善、風邪やインフルエンザなどの症状を和らげることで知られています。
「養蜂」の歴史
古代から「ハチミツ」をさまざまな形で利用してきた人類。ハチの巣から「ハチミツ」を採る女性の姿が描かれている1万年前の壁画も残っています。
養蜂が盛んになったのは、ヨーロッパでは中世頃。教会で使うロウソクのためにミツロウが必要とされたこと、「ハチミツ」が薬として使われていたことから、修道院などで養蜂が行なわれてきました。
日本では、平安時代に「ハチミツ」が宮中に献上されたという記録がありますが、養蜂が行なわれていたかどうかははっきりしないそうです。養蜂が本格化するのは、明治に入ってセイヨウミツバチが輸入されてからのことになります。
かつては、春先に九州でナタネ蜜、その後本州を北上し、真夏には北海道へ、蜜源の開花に合わせて巣箱を運ぶ「移動養蜂」が盛んに行なわれていましたが、農薬の使用が増えたことや、環境悪化などによって次第にすたれ、今ではほとんど見ることがなくなりました。
そんななか、近年ビルの屋上などでミツバチを飼うプロジェクトが注目されています。サンフランシスコやニューヨーク、ロンドン、パリなど世界各地で、日本でも東京、大阪、札幌、仙台などで都市養蜂が行なわれています。あなたの街でも、“地産地消”の美味しい「ハチミツ」が作られているかもしれません。
ところで、古くから家畜として人と共存してきたミツバチと違って、同じハチの仲間でも、スズメバチはとても危険です。スズメバチに刺されると、体質によりますが、アナフィラキシーショックを起こして、最悪の場合死に至ることも。夏から秋にかけて、巣の規模が大きくなる季節は特に要注意。ハチはハチでも、スズメバチの巣には近づかないようにしてくださいね。そして、もうひとつ。ミツバチは私たち人間にとってとても有益な存在ですが、人をもちろん刺すこともありますし、危険な種もいますので、貴重な「ハチミツ」を作る有益なミツバチとはいえ、刺激を加えるなどといった行動は避けましょう。
[文 ACORN編集部]