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サクラ満開、春爛漫! でも……同時に気になる花粉症。「花粉」を巡るお話

地球温暖化の影響で、花粉の飛散量が増えているともいわれている。

 街角にも野山にも、いろいろな花が咲き始め、心躍る春。一方、花粉症の人にとっては困った時期でもあります。そんな季節、いろいろ気になる「花粉」に注目してみましょう。

 植物の先祖にあたる光合成を行なうシアノバクテリア(藍藻植物)の誕生は、約35億年前。それらが進化して、「胞子」によって増えるコケ類やシダ植物が生まれました。その次の段階で発生したのが、「タネ」を作る裸子植物でした。スギやヒノキにつながる仲間で、胞子に代わって花粉を作るようになりました。そしてその後に、現在最も進化したスタイルを持つ植物、被子植物が誕生します。身の周りでいちばんよく見る、花の咲く植物たちです。

 被子植物は、種類の多さでも、個体数でも、地球上でもっとも繁栄している生物といえる植物ですが、動物から見ると「栄養を与えてくれるありがたい食糧」という存在でもあります。※この一連の内容については、太陽光というエネルギーの恵み-その3「ヒトや植物、地球への恩恵」をご参照ください。

 逃げ回ることもなく容易に食べさせてくれる植物は、昆虫をはじめ、多くの動物たちから一方的に収奪される弱い存在のようにも見えます。ところが、じつはしたたかな生存戦略を持っています。特に花粉を散布するための仕組みを見ると、驚くべき点がたくさんあるのです。では、具体的に考察していきましょう。

花粉っていったい何のためのもの?

 花粉は、DNAを閉じ込めたカプセルのようなもの、というとわかりやすいかもしれません。植物が次世代の個体となる「タネ」を作るために欠かせないものです。被子植物を例にとると、おしべが花粉を作り、めしべが花粉を受け取る「受粉」によって実やタネが作られます。

 スギやヒノキなどの裸子植物の場合、受粉のための特別な仕組みを持たないため、受粉率を高めるために大量の花粉を作り、「数打ちゃ当たる」という原始的な作戦をとっています。スギ・ヒノキ花粉症の人にとっては迷惑極まりないことですが、風任せのバラマキ作戦なので仕方がありません。

 一方、被子植物は、「花」を作ることで花粉を媒介してくれるムシを引き寄せるなどの高等な戦略を持っています。チョウやハチなどといった花粉を運んでくれる昆虫が訪れるように、蜜を蓄えたり、目立つことでムシを引き寄せるために色をつけたり、花びらに模様をつけたりします。

 例えば、タンポポの場合は、ムシが止まりやすいように上向きに咲きます。ムシが潜り込むことによって、その身体に花粉をつけるために下向きになったり、入口を小さくしたりする花もあります。ツツジのように花びらに模様があるものは、特定の昆虫を引き寄せるための「標識」的な意図を持っています。ほかにも、甘い香りを出してムシを呼び寄せる作戦もよく見られます。

タンポポの花は黄色く目立つうえ、水平で安定した形状になっている。
ツツジの花びらの内部には、よく見ると点描画のような紋様がある。

 さらに、「共進化」といって、花を訪れる昆虫と、昆虫を呼び寄せる花が、それぞれ相手に合わせて共に進化を遂げるというケースもあります。例えば、ある種のランは、蜜を求めるガの頭に確実に花粉をつけるために特殊な形態に進化し、ガは蜜に届くように口吻が非常に長くなっています。

花粉とは、「DNAを搭載した旅するカプセル」

 1粒の花粉は、1つの細胞です。その大きさは、植物の種類によってだいたい決まっています。1mmの1/100レベルから、1/10レベルまで、大小さまざま。風で吹き飛ばされたり、水に流されたり、昆虫や鳥などの身体について運ばれたりするので、大切な中身を守るために、堅い膜で覆われています。

 旅をする間には、水に浸かったり、乾燥したり、低温や高温にさらされたりすることもありますが、少々のことでは破壊されることはありません。それどころか、王水(金を溶かすことができる硫酸と硝酸の混合液)や、フッ化水素でも溶かすことはできないそうです。

 古い時代の化石から花粉が見つかることがありますが、花粉の硬い外膜は何億年もの時を超えて存在し続けることができるのです。被子植物の誕生を裏づける確実な証拠は、白亜紀の初期にあたる約1億3000万年前の花粉の化石だそうです。花粉とは、まさに「DNAを搭載した旅するカプセル」なのですね。

花粉症の実状と対策

 さて、日本人に多い花粉症ですが、いまや4人に1人が花粉症の症状を訴えているといわれています。花粉症とは、簡単にいうと「体内に侵入した異物(花粉)を撃退しようとする免疫機能の過剰反応」の結果起こる症状。最大の対策は免疫力を高めることといわれています。同時に、異物である花粉の体内侵入を防ぐことが重要ですので、マスクやメガネなどを活用しましょう。さらには「口呼吸」も厳禁です。できるだけ「鼻呼吸」をするようにしましょう。鼻腔内の粘膜が花粉の侵入を防ぐ効果があります。

 そんな花粉症、スギ花粉症が代名詞的になっており、冬の終わりから春にかけて多くの人が悩まされます。とはいえ、スギ以外にもヒノキ、ハンノキ、シラカバ、イネ、ブタクサ、カナムグラ、ヨモギなど、約60種類の植物が花粉症の原因になるそうです。これらの植物の開花時期をカレンダーにすると、早春から晩秋まで、真冬以外のほとんどの季節に花粉が飛散していることがわかります。南北に細長い日本列島では、地方によって開花時期もいろいろ。北海道や沖縄にはスギがほとんど分布しないため、スギ花粉症はありません。しかし、北海道ではシラカバによる花粉症が多いなど、地方によって特徴があります。

真っ直ぐに伸びる杉は建材として使い勝手がよいため、植林が盛んに行われた。
スギの雄花。毎年3~5月頃、ここから大量の花粉が風に乗って飛散する。

 花粉症でお困りの方は、自分がどの花粉に反応するのかを知っておくと、対策が立てやすいでしょう。いよいよ春本番、花粉症はやっかいではありますが、お花見や暖かな春の陽気に少しでも癒されますよう。

[文 ACORN編集部]

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