Column

森の賢者 フクロウの棲む森

 ヨーロッパでは「森の賢者」とよばれ、日本では「不苦労」「福来郎」と書いて縁起物になっているフクロウは、世界中でわりと印象がいい鳥ですね。
 森に棲んでいるイメージがありますが、樹木のない北極圏の草原で繁殖するシロフクロウやサボテンが生えているような砂漠地帯で生活するアナホリフクロウなど、世界には様々な環境で200種類以上のフクロウの仲間がいます。

 日本には11種類のフクロウの仲間がいます。北海道に棲んでいる世界最大級の大きさのシマフクロウは、水辺で魚を捕らえ、大木の樹洞で繁殖するため、河川改修や森林伐採などの開発の影響を受けやすく、今では絶滅危惧種として保護されていますが、現在その数はわずか160羽ほどだそうです。

 フクロウの話をすると、「ミミズクとフクロウは違うの?」とよく聞かれます。
鳥の仲間としては同じですが、見た目で、耳(羽角“うかく”)のあるのがミミズク、無いのがフクロウです。でも、シマフクロウには立派な耳があり、アオバズクには耳がありません。まあ、同じフクロウ目フクロウ科の鳥類で生物学的には同じ種別なので小さなことは気にしなくて大丈夫です。

(左)オオコノハズク(羽角あり) (右)アオバズク(羽角なし)

 一般的にフクロウという名のフクロウは、北海道から九州まで、大都市を除けば、わりと身近にいる里山の鳥です。夜行性なので、実際に見たことのある人は少ないかもしれませんが、夜になると大きな声で「ホッホ ゴロスケ ホッホ」と鳴くので、鳴き声は聞いたことのある人もいることでしょう。

 C.W.ニコルさんが創設した長野県信濃町にあるアファンの森に僕(著者)が関わりはじめた2000年ごろ、創設時からニコルさんの森づくりのパートナーで、当時、森の番人でもある松木さんと森を歩いていると、視界の端でフワッと何かが茂みに降りるのに気づきました。目を凝らすと、それはフクロウでした。僕らに気づいたのか、フワッと飛び立ち横枝に止まりました。「昼間に、こんな近くで見たことはないなぁ」と松木さんも嬉しそうです。この近くで、専門学校の生徒さんが数年前にフクロウの巣箱を設置していましたが、それまで繁殖の記録はありませんでした。そして、巣箱にはスズメバチが巣を作っていたのです。その後、スズメバチの巣は取り除きました。

 アファンの森は、放置されて荒れた森をC.W.ニコルさんと松木さんが大事に手入れをしていましたが、森としてはまだ若く、フクロウが巣に使えるほどの大きな洞のある木がありませんでした。そのため、環境が整うまで仮の家として巣箱を設置していました。

 2002年、アファンの森の巣箱で、初めてフクロウの繁殖が確認され、無事に3羽のヒナが巣立ちました。それから、毎年のようにフクロウは繁殖を続けています。
 2008年と2010年には、巣箱ではなく初めてシラカバの樹洞での繁殖が見られました。


 2020年、今年は3羽のヒナが無事に巣立っています。これまでの19年間で、アファンの森生まれのフクロウは、全部で37羽になりました。

 アファンの森では、フクロウを保護するために巣箱を作って特別扱いをしてるの? と思われるかもしれませんね。

 フクロウが生きていくために必要なことは、

  ①エサとなるネズミや小鳥がたくさんいること。

  ②休息できる適度な森林があること。

  ③巣として利用できる大きな木があること。

 アファンの森では、③の大きな木がまだありません。それを補うために巣箱を設置してフクロウに来てもらっているのですが、この3つの条件は豊かな森、生物多様性に富んだ森の条件でもあるのです。

 このアファンの森が、生き物にとってどうなのか? そして全国の森はいまどうなっているのか? 森の賢者はそっと評価しているのです。 

文・写真/川崎きみお  編集/ACORN編集部

ライター紹介:川崎きみお

茨城県の海辺の街で生まれ育ち、現在は長野県安曇野在住。 全国の野山へ出かけ、野鳥や哺乳類の環境調査を行うかたわら、 C.W.ニコル・アファンの森財団では、生き物調査のほか、子供たちメインに森の楽しさを伝える活動をてしている。 地元の安曇野でも、いくつかの森の幼稚園で小さな子供たちと森遊びを実施している。

TOP