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どうしてお正月には門松を飾るの? 門松から考える日本人と竹の関係

東京都文京区の六義園の門に飾られる門松は斜め切りの「そぎ」ではなく、「寸胴切り」。これは六義園を所有していた岩崎家が武田氏の末裔といわれているから。

 日本では年末から年明けにかけて、玄関先に門松を見かけるようになります。門松には、神様(年神様)が家にやって来るときに、迷わないための目印という意味があります。

門松にはどうして松と竹が使われるの?

 門松が飾られるようになった由来は、平安時代までさかのぼります。正月の最初の「子(ね)の日」に、小さいマツを根ごと引き抜き、玄関に飾るという宮中行事「小松引き」が、その始まりといわれています。マツは名前が「祀る(まつる)」につながり、一年中緑の葉がつく常緑樹であるため「永遠の命」を表します。

 しかし、現代の門松は、マツの葉よりもタケが目立つものが多いですよね。タケは生長が早く、すくすくと真っ直ぐ上に伸びることから、生命力や長寿、繁栄を表すといわれています。めでたい植物なので、お正月に飾っているというわけですね。

 飾り付けは、12月13日から12月28日までの間にするのが習わしです。29日は「二重苦」と読め、30日や31日になると「一日飾り」(30日は旧暦で数える)といわれて神様をおろそかにしているとされるため、門松は12月28日までに飾るのがよいとされているのです。飾っておく期間(松の内)は地域によって差があり、関東では1月7日、関西では1月15日までとされています。

 ちなみに、門松に使うタケの切り口は、斜めに切られた「そぎ」と、水平に切られた「寸胴(ずんどう)の2種類があります。「そぎ」は、戦国時代に徳川家康が始めたともいわれ、宿敵だった武(竹)田信玄を斬る、という意味があったそうです。

日本人と竹の深い関係

 日本人にとってマツやタケは、昔から馴染みが深い植物です。特にタケは、カゴなどに細工された製品が縄文時代の遺跡から出土しています。縄文時代以降も現代まで、ザルや箸、ものさし、うちわや扇子の骨、竹馬、竹とんぼなど、身近なところでタケが使われてきました。  タケはしなやかで折れにくく、通気性に優れ、さらに軽いという特徴があります。熱や湿度にも強いため、生活雑貨などに加工するにはぴったりの素材といえるでしょう。さらに、抗菌作用もあるので、タケの皮やタケの葉(笹)で、おむすびや餅、かまぼこなどの食品を包むのに使われます。  タケノコを使った料理も豊富ですよね。炊き込みごはんや煮物にしたり、メンマに加工したりと、日本人の食生活と切っても切り離せない関係にあります。

タケで編み込まれたザルやカゴ。日本の伝統民芸品のひとつ。

驚くべきタケの育つスピード

 現在日本国内に多く生えているのは、「孟宗竹(もうそうちく)」という種。大きなタケノコができるという理由で、江戸時代に中国から薩摩藩に輸入されました。現在もスーパーなどで見かけるおなじみのタケノコです。3月中旬から5月下旬頃が食べ頃で、土からちょっと頭が出ていたら掘り起こすタイミングです。放っておくと、あっという間に大きなタケになります。  孟宗竹以外でも、タケは基本的に生長が早いのが特徴です。タケノコは頭を出してから10日前後で数十cmも伸び、わずか3カ月で20mを超える高さになります。生育環境や個体によっては、1日で1m以上成長することもあります。  タケは地表面の下30cm前後の地点に地下茎を張り巡らせており、そこから株を増やしていける植物です。受精しなくても、どんどんタケが生えてくるのです。 タケ1本の寿命は一般的には20年ほどですが、5年以上経つと地下茎の働きが鈍くなってくるようです。タケは地下茎でつながっていることから、竹林自体の寿命もあります。種類によって違いますが、孟宗竹では60〜80年程度といわれています。

土から頭を出すタケノコ。すでに皮の部分が多く出てしまっているので、収穫には適さない。

問題化する放置竹林と活用法

 昔はさまざまな形で人々の暮らしのなかで活用されてきたタケですが、プラスチック製品が多く出回るようになったこと、海外産の安価なタケノコが輸入されるようになったことなどにより、管理されずに放置される竹林が多くなりました(とはいえ、現在、見直されている現状もあります)。そして、タケは生長が早いため、あっという間に周辺に竹林が広がります。人間の手に負えない状態となった「放置竹林」が全国で問題化しています。  放置竹林が問題となる理由には、もともとあった生態系を壊してしまうこと、土砂崩れのリスクを高めてしまうこと、などが挙げられます。  成長したタケが上空を覆うと、地表付近に日光が当たりづらくなるため、背の低い植物は充分に光合成ができず、枯れてしまいます。また、タケが密集すると、タケ自体の生存競争で枯れるタケが出てきますが、枯れたタケが放置されると根腐れが広がり、地盤の表層が緩むことで斜面などでは土砂崩れのリスクが高まります。

放置竹林に詳しい「竹イノベーション研究会」の田中義朗さんによると、竹は半年ほどで1人前の大きさになり、竹林の拡大につながっているのだそう。

 近年このような放置竹林の問題を解決するとともに、生長の早いタケがバイオマス資源としても着目され、タケを有効活用しながら放置竹林を解消していく取り組みが全国的に広まりつつあります。例えば、タケを細かく砕いて作る竹チップは、土とセメントを混ぜることで、遊歩道や駐車場などの舗装材料としての新しい活用例も登場してきています。タケを大量に活用できるというだけでなく、水はけがよく、防草効果があり、アスファルト舗装よりも温度の上昇が抑えられるというメリットがあります。また、タケを紙の原料(パルプ)とする仕組みを構築し、コピー用紙などとして使える「竹紙」を製造している製紙メーカーも。今はまさに、タケ活用の転換期といえるでしょう。今後も新たなタケの活用法に注目です。  さて、みなさんは門松を飾られたでしょうか。そこにはマツだけでなくタケもあるかどうか確かめてみてください。近所のお散歩がてら、いつもと違った風景、自然と人の暮らしが融合したお正月ならではのシーンを楽しんでみてください。本年もよい年でありますよう。 [文 ACORN編集部]

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