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太陽光というエネルギーの恵み-その3「ヒトや植物、地球への恩恵」

太陽光エネルギーが緻密に循環する奇跡の惑星

 地球は最初から今のような姿をしていたわけではありません。誕生した頃は燃える岩石の惑星でした。それがやがて大気に包まれ、海に覆われた水の惑星へと進化していきました。そして、このような地球環境の形成に大きく関与していたのは、もちろん太陽光のエネルギーであり、また光合成という能力を身に付けた植物との連携であったことを前回(「太陽光というエネルギーの恵み-その2」参照)はお話ししました。植物の光合成によって地球の大気中に徐々に酸素が増えていき、やがて地上を自由に動き回る生物が出現したわけですが、今回はヒトを含む動物が生きていくための食物エネルギーと、太陽光との関係性について触れたいと思います。

太陽光エネルギーは食物にカタチを変える

 光合成とは、植物の葉が太陽の光を浴びて、「水分と空気中の二酸化炭素から糖やデンプンなど炭水化物を作り出し、水を分解する過程でできた酸素を放出する反応」です。このように植物は光合成によって太陽光のエネルギーを自分の化学エネルギー(栄養素=炭水化物)に変換できるので、モノを食べなくても成長していくことができるのです。

光合成の神秘。太陽光と二酸化炭素、そして水によって植物は葉の中で複雑な化学反応を起こし、自らの栄養素を作り出す。

 一方、動物は光合成などというシャレたワザを持っていません。太陽の光をいくら浴びたところで、自分のエネルギーに直接活用することはできません。そこで、エネルギーとなる栄養素を補給するために、モノを食べて腹に詰め込む必要があります。当たり前ですが、動物は食べないと生きてはいけません。 

 では、何を食べるのか。ウシやウマ、シカ、ヒツジ、ウサギなど草食動物は、樹木の葉や草、植物の実などを食べて生きているわけですが、これは光合成によって作られた物質を自分の食物エネルギーとして吸収していることになります。言い換えれば、植物を介した間接的な太陽光エネルギーの補給です。

 ではライオンやトラ、ヒョウ、ハイエナのような肉食動物はどうでしょうか。肉食動物は植物の繊維を消化して自分の栄養素にすることができないのです。そこで、すでにたんぱく質としてでき上がっている草食動物が彼らの食糧となります。ライオンは、草原動物であるガゼルやインパルなどを狩り、その肉に含まれている栄養素を吸収します。

草原の草を食むガゼル。植物の栄養が草食動物の肉体を作り、それは肉食動物のエネルギー源でもある。
肉食動物も間接的に太陽光エネルギーによって生かされている。草食動物がいなければ肉食動物は生きていくことができない。

 しかし、この場合も、植物から草食動物へと伝達されていった太陽光エネルギーの間接的な補給といえるでしょう。なかには人間のように、草だろうが肉だろうがなんでも食べてしまう雑食動物もいますが、こうしてみると、すべての動植物の生育エネルギーの根源は、光合成を媒介とした太陽光エネルギーだったということが理解できるでしょう。

食物は連鎖し、地球上でエネルギーが伝達されていく

 地上に届く太陽光のエネルギーは、このように植物の光合成によって糖やデンプンなどの栄養素にカタチを変え、その後、動物同士の食う食われるという関係のなかで伝達されていきます。地球上でこうした関係性ができ上がってきたのはいつ頃のことなのでしょうか? 4億年ほど前、脊椎動物が発生したあたりから微妙にそんな兆候があったのかもしれませんが、私たちが明確にイメージできるのは、やっぱり恐竜全盛期でしょうか。

 首としっぽがとてつもなく長い竜脚類のアルゼンチノサウルスとか、背中にヒダヒダのウチワを幾枚も背負っているステゴサウルス、サイのようなトリケラトプスなどは代表的な草食恐竜。それらが平和にムシャムシャ草を食べているところを、肉食のティラノサウルスやヴェロキラプトルの集団(映画『ジュラシックパーク』にも登場)なんかが襲うといった構図でしょうか。実際にそうだったかどうかはわかりませんけれど。

 海の中も同様です。海面近くを漂う植物性プランクトンは太陽光によって光合成を行ない、たんぱく質や糖分を蓄えていきます。それをミジンコなど動物性プランクトンが食べ、動物性プランクトンはイワシなどの小魚が食べて育っていきます。さらに、小魚は大型の魚のエサになり、大型の魚が死ぬとその体は腐敗して微生物やカニのエサとなり、太陽光エネルギーは深海の底にまで伝達されていきます。

食物連鎖の闘争劇は海の中も同様。それにより、太陽光エネルギーは深海にまで伝達される。
森の食物連鎖。

マス300匹は1,000tの草のエネルギーに相当!?

『最新環境百科』(丸善出版)を著した環境科学者のG.タイラー・ミラーは、次のような有名な言葉を残しています。

「一人の人間が1年間生きるためには300匹の鱒(マス)が必要。300匹の鱒には9万匹のカエルが必要で、その9万匹のカエルには2,700万匹のバッタが必要。そして、2,700万匹のバッタは1,000トンの草を食べなくては生きられない」

 いくらマスが好きな人でも、1年に300匹も食べることはないと思いますが、ただしこれは比喩にすぎません。この一文が意味しているのは、一人の人間は1,000tもの草を食べなくても、マス300匹分で1,000tの草と同様のエネルギーが得られるということ。このような関係を図にしたのが「生態系ピラミッド」であり、その頂点にいるのが人間や大型の肉食動物です。とはいえ、頂点にいるからエライ! というわけではありません。

 大きな肉食動物も闘争で敗れ、あるいは寿命が尽きて、いずれは死んでしまいます。その死骸は腐敗して微生物に分解され、土の栄養分になります。その栄養を、今度は植物が吸収し、植物は太陽光を浴びて光合成を行ないながら成長していく。そして、植物を草食動物が食べ、肉食動物は草食動物をエサにする。この連鎖が延々と繰り返され、太陽光エネルギーも地球上で循環し続けていくのです。

地上の生態系ピラミッド。

太陽光エネルギーは植物によって地球に蓄積される

 太陽から放射される莫大なエネルギーの大部分は、宇宙空間に飛散されてしまいます。その22億分の1というホンのわずかな量が地球上に届き、地表や海水面を温めたり、気象変化を起こすなどさまざまな働きをしていますが、最終的にはやはりエネルギーの大部分は熱として地球外(宇宙)に放散されてしまいます。

 しかし、その太陽光エネルギーのさらにごく一部は、まるでソーラー電池で充電されていたかのように地表に留まっています。いや、電気エネルギーで蓄積されているわけではありません。光合成ができる樹木や草花、海の中なら藻類や海草、植物性プランクトンなどの栄養素にカタチを変えて、地球に蓄積されているのです。

 先述のように、動物たちはその蓄積された太陽光エネルギーを、食物として間接的に体内に取り込んで生きているわけです。また、太古の昔の植物は地中に堆積し、長い年月をかけて石炭や石油、天然ガスなどに姿を変えています。現在、燃料エネルギーとして利用されているこれらも、元々はカタチを変えて蓄積された太陽光エネルギーといえるでしょう。

 あまねく降り注ぐ太陽光は、大いなる恵みを地球の生物に与えてくれていますが、同時に私たちは光合成の作用とありがたみにも思いをはせなくてはなりませんね! 忘れてはならないのが酸素の生成。地球に酸素があるのは、ひとえに光合成のおかげ。酸素があるから生物が生きることができ、また火も燃やせます。身近な植物にも大いに感謝しなくては!

 さて、森の中で耳を澄ませていると、風の抜ける音やザワザワとした木々の葉のこすれ合う音、場所によっては小川のせせらぎなど、さまざまな音が聞こえてきます。これらの音の根源もまた太陽光のエネルギー。そして森の木々は、日の光を浴びている限り絶え間なく光合成を行なって酸素を放出します。目に見えないところでも、蓄積された太陽光エネルギーを糧として小動物たちの食物連鎖の闘争が行なわれていることでしょう。

 太陽の不思議から始まり、地球環境の成り立ち、そして今回の光合成や食物エネルギーの話まで、シリーズを3回に分けて「太陽光というエネルギーの恵み」をお送りしてきました。太陽光と光合成によるエネルギー伝達、そして緻密に循環していく自然の仕組みは本当に不思議。そんなことをちょっと心の片隅に置きながら、森を散策してみませんか? 感慨深い思いに浸るのもいいかもしれません。

[文 ACORN編集部 イラスト 田中明子]

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