Column

【赤鬼のつぶやき C.W.ニコル】カエデ(Maple)

「カエデ」という日本名は「カエルの手」に由来していると教わったことがあります。真偽のほどは定かではありませんが、たしかに覚えやすいと思いました。

 10メートル程度のものから45メートルに成長するものまで、およそ128種類が確認されています。日本では、秋になると真っ赤に紅葉するモミジが一番人気です。

 カエデの仲間の種には二枚の「羽」がついていて、小さなヘリコプターが旋回するように風に乗って運ばれて行きます。

 アファンの森にあるカエデは「ウリハダカエデ」と呼ばれています。でも英語でこの種類をどう呼べば正しいのか、いまだにわかりません。大きな葉で、幹にはまだら模様があります。今では引退してしまった森の番人・松木さんは、冬の終わる頃になるとカナダのサトウカエデと同じようにこの木の透明な樹液を集めていました。とても優しい味のメイプルシロップをつくる材料になるのです。煮詰めてつくるシロップを1リットルにするためには、なんと80リットルの樹液が必要です。わたしは、このウリハダカエデのシロップのほうが、北米産のメイプルシロップよりも口に合っていて、好みです。そして花にはミツバチもやってきて、蜂蜜のもとにもなります。カエデは、自然界の中でとても重要な役割を果たしている種のひとつでしょう。

 木材として使われる樹種には、素材の特徴によってグレードがあり、用途が決まります。カエデのように硬くて長持ちする最高の品種だけが、野球のバットやボウリングのピン、アーチェリーの弓として加工されます。もちろん家具も。

 響きの良い音を奏でるカエデは、ギター、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器、バスーンやリコーダーなど木管楽器にも変身します。また、悲しいかなとても強い繊維であるがゆえに良質な紙をつくる材料として伐採され、パルプに加工されます。

 どんな姿をしていても愛されるカエデですが、森の中ですくすくと育っているところが一番です。

C.W. ニコル
2017年2月

写真提供:C.W.ニコル・アファンの森財団


KAEDE – MAPLES AND SYCAMORES – Genus Acer

 An old Japanese friend once told me that the name ‘kaede’ came from the shape of the leaf, ‘kaeru no te’. I don’t know if it’s true, but it was easy to remember.

 There are 128 species of kaede tree, growing ten to 45 metres tall. Japan is most famous for the kaede, which turn bright red in autumn.

 Kaede species have seeds with two ‘wings’, which cause the seed to flutter down or get spread by wind, like little whirling helicopters.

 One of our Afan woodland kaede is called ‘urihada kaede’ in Japanese, but I can’t find the English name. It has a large leaves, and mottled bark. Our now-retired forester Mr. Matsuki used to tap these trees in early spring, just like the famous Canadian sugar maple. He would make a very delicate, sweet maple syrup by boiling down the clear sap. It would take about 80 litres of sap to make one litre of syrup, which to my taste, was better than North American maple syrup.

 Maple is a very important species in nature, giving pollen for honeybees.

 The wood, of which are many grades, is hard and durable, used in making baseball bats, bowling pins, and for recurved archery bows. For furniture too, of course. Maple wood is also an excellent tonewood, extensively used in making guitars, violins, cellos, and also for woodwind instruments such as bassoons and recorders.

 Perhaps unfortunately it is also a favoured wood for pulp, because the fibres are strong and make good paper.

 We prefer to have them growing in the woods!


C.W.Nicol
February 2017

C.W.ニコル

作家・1940年イギリス南ウェールズ生まれ。1995年日本国籍取得。カナダ水産調査局北極生物研究所の技官・環境局の環境問題緊急対策官やエチオピアのシミエン山岳国立公園の公園長など世界各地で環境保護活動を行い、1980年から長野県在住。1984年から荒れ果てた里山を購入し「アファンの森」と名づけ、森の再生活動を始める。2005年、その活動が認められエリザベス女王から名誉大英勲章を賜る。2011年、2016年に天皇、皇后両陛下がアファンの森をご視察された。

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